志を高く持ち、夢を語り、世界に一石を投じるのは、いつの時代も若手の起業家たちだ。未来を形づくるその仕事に迫り、明るい社会を期待せずにはいられない起業家の想いに光を当てる本連載。第2回目は「仕事は『志事』」と語り、企業利益とSDGsの両立を目指し、新たなビジネスへと導くWORLD ROADの平原依文さんへのインタビュー後編。【前編「8歳で中国へ単身留学、培われた国際人としての嗜み」はこちら】
社会課題の解決とビジネスを両立する
法人向けにSDGsのコンサルティング・ブランディング事業、教育機関向けに授業を行うという教育事業を展開しているのが、平原依文さんが共同代表を務めるWORLD ROADだ。大企業を中心に多くのクライアントを広げながらも社員は3人。それでも事業展開を可能にしているのが、ネットワークの活用だ。
「SDGsは環境、ジェンダーなど多領域にわたります。そのすべてで専門家にはなるのは難しい。そこで、フリーランスで活躍している24名の方を業務委託としてネットワークしています。プロジェクトベースで企業の課題に合わせ、加わっていただいています」
国連出身者、JICA出身者など、24人の経歴は多彩で多岐にわたるが、なんとその多くはSNSでつながったのだという。
「あとは、SDGs関連のイベントですね。そうした場で出会って、協力していただいている方もいます」
ネットワークはそれだけではない。大学生に加え、中高生のインターンがアドバイザーとして加わっているのだ。
「今の中高生たちは、義務教育の中でSDGsを学んでいますので、ものすごく詳しいんです」
実は社会の課題に対しての問題意識をしっかり持っている。しかも、一般消費者としての感覚もある。中高生と企業とのマッチングは大きな化学反応につながるという。
「企業は何もやっていない、こんなことではダメだ、などと発信して満足している場合ではないよ、とインターンの学生には伝えます。実際、企業にはできることとできないことがあります。どうすれば社会課題の解決とビジネスを両立させられるのか、そこで自分自身が一緒にできることは何かを考えよう、と促しています」
例えば、平原がサポートしている先進的な事例として大手小売りの丸井がある。顧客の中心は10〜20代の若い女性。この世代の女性たちは、社会課題に向かう意識が極めて高い。加えて丸井側にも、社会が大きく変化していく中、それなりの資本を持つ企業に長期契約でテナント出店してもらう、という従来のビジネスモデルをずっと継続していていいのか、という危機感があった。
「実際、若い女性たちはインスタグラムを使って、D2C(製造者がダイレクトに消費者と取引するモデル)企業から直接、商品を買っているのが、今の時代なんです」
だが、D2C企業のすべてに資本力があるわけではない。そうなれば、すぐにテナント出店することは難しい。そこで丸井が考えたのが、イベント形式でスペースを貸し出していくことだった。1日利用や売り上げマージンが費用になるので、出店にあたって、まとまった大きな費用も必要ない。そうすることで、D2C企業は1日からでも簡単に出店できる仕組みを作った。
「ファンはこれまでデジタル上でしか会えなかった店に、リアルのポップアップ店舗で出会えるようになります」
これは、D2C企業に成長のチャンスを与えられるということだ。
「この仕組みは、丸井の共創理念体系があるからこそ、D2C企業を育てていくという企業姿勢の現れでもあるんです。実際に、丸井さんはD2C企業への投資を共創投資として行うことも実施しています」
丸井とは紹介で出会ったという。未来世代に向けた新たな店舗経営をしたいという経営トップの意志があり、意見をしてくれる若い世代が求められていた。重要なのは、やはり経営トップの強いコミットメントと若手社員の自発性だという。それがなければ、会社は変わっていかない。
「店舗の担当社員も若い人なんです。D2Cの会社の人たちも若い人が多いですから、若い人同士、連携はとてもスムーズのようです」
お金の前に、自分の人生をどうするか
社会の境界線を溶かすためにSDGs推進をビジネスとして支援しながら、一方で世界の最新動向を探り、ネットワークも広げる。
「先週はサンフランシスコに出張に行っていました。ツイッター社の1階にあるスーパーには、女性起業家がつくった商品だけが並べられた棚があって。ワインをつくっている方が気になり、実際にワイナリーを訪ねてみました」
聞けば、かつて勤めていた化粧品会社と一緒に、SDGsを意識した新しい製法でのスパークリングワインを共同開発していた。世界中で、こうした動きが加速しているという。
「日本人には世界に誇れるいいところがあります。まじめで慎重で完璧さを求める。スペイン留学時代、ビジネスの授業で日本の素晴らしさを学んだくらいです。ただ、優秀な人ほど、学生時代までは頑張るけれど、その後は安定のレールに乗ってしまう印象があります」
背景にあるのは、お金に対する安定意識、そして比較意識ではないかと語る。それが、日本人を保守的にしているのだ。
「海外では、お金の前に、自分の人生をどうするか、という意識が先に立ちます。人生を充実させるために、どうハンドリングしていくか、ということのほうが大事なんです」
そしてもうひとつ、平原さんが語るのが、モデルケースが少ないことだ。
「SNSの時代は、実は有名な経営者ではなく、身近で気になる人をフォローします。充実した生き方をしている起業家たちが身近にたくさん現れたら、日本も変わるはず。その意味で、自分たちの代でロールモデルを増やしていかなければ、と思っています」
仕事は、志事だと考えている、と平原さん。すべては社会につながっている。あらゆる境界線が溶け、よりよい社会になるために、今日の“志事”はあるのだ、と。
【前編「8歳で中国へ単身留学、培われた国際人としての嗜み」はこちら】
平原依文さんの素顔が垣間見える一問一答!
Q24 苦手なことは?
家事。
Q25 逆に得意なことは?
なんでも楽しめる。面白がるのが得意です。
Q26 仕事道具としてマストなものは?
iPhone。連絡手段としてもですが、Googleスライド開いて資料作りもしています。
Q27 連絡方法は電話?ライン?メール?
すべて使っています。Facebookのmessengerが一番利用頻度が多いかも。
結構、電話も好きです。
Q28 座右の銘は?
自分軸を信じる。
Q29 仕事で成し遂げたいことは?
目の前にいる人が笑顔になること。
Q30 対人関係で大切にしていることは?
心と向き合う。
Q31 今まで出会った人の中で、こんな仕事人になりたい! と思った人は?
真面目に答えて、全員かもしれません。人によって魅力が違うので。
Q32 メンターはいますか?
母。心に留めている言葉は「利用されるだけ価値があるということ」
Q33 リモートとリアルの打ち合わせをどう使い分けてる?
極力リアルにはしています。進行確認等はリモート、アイデアを出したり、物事を決める時にはリアルです。
Q34 人生のターニングポイントは?
8歳で中国に行ったこと。
Q35 36について、理由は?
「自分の声を持つことの大切さ」を知りました。
Q36 アイデアが湧く瞬間は?
散歩している時
Q37 一緒に仕事したい企業は?
志を持っている企業
Q38 一緒に仕事したい人物は?
イチロー選手。ヒットの素振りを毎日し続ける、打席に立ち続ける姿勢を尊敬しています。
「教育」として一緒にして、何かを開発できたら。
Q39 結婚に大切なことは?
正直であること。近すぎるゆえに気を遣ってしまうこともあるので。
Q40 今の生きがいとは?
毎日、人と会って、話すことすべてが生きがいです。
Q41 喜怒哀楽は激しい方?
めちゃくちゃ激しい。「喜」が大きい。
Q42 8歳の自分に助言するなら?
もっと自分に自信を持っていいよ。自分を愛せなかったので。
Q43 家族の言葉で指針となっている言葉は?
父の言葉。「人はいろんな見方をする人がいる。本当の『みる』は自分の目を使って、その人の心をみるということだよ。あなたは人の心をきちんとみられる人になってほしい」
Q44 10年後は何をしていると思う?
ニュージーランドで学校を作っています。民泊兼学校。誰でも先生になれたり、生徒になれたりする場所。
Q45 一緒に働きたいと思う人はどんな人?
自分の直感を信じられる人。直感というと、突発的なものに聞こえるかもしれませんが、色々な経験や考えが積み重なった結果だと思うので、「これでいいんだ!」と思って突き進める人。
Q46 今までにもらって嬉しかったもの
父からの手紙。留学していたときに、唯一父とは文通でやりとりしていました。日本語を忘れないように、言葉の大切さを忘れないようにと。言葉への向き合い方が変わりました。
Q47 夢を叶えるために大切なことは?
失敗を恐れない。失敗をいっぱいする
Q48 仕事とは?
志を形にする「志事」です。
Ibun Hirahara
平原依文/World Road 共同代表取締役
早稲田大学国際教養学部卒業。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。その後、長年の夢である教育ビジネスを実現するためプロノイア・グループ株式会社に入社。2019年に、幅広い世代へのSDGs教育のため「地球をひとつの学校にする」をミッションに掲げるWorld Roadを設立。ひとりひとりが自分の軸で生きる境界線のない社会を目指し活動を行う。Twitter:@ibunhirahara