PERSON

2021.09.24

【西野亮廣】すべての創造は「編集作業」だ

この連載は、オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』に投稿した記事を、加筆修正したものです。
今日は「今度は、こんなことをするよ〜」という話ではなくて、「この結論に至るまでには、こういう道を辿ったよ〜」というお話をして、そこから、「『アイデア』『モノづくり』の何たるか?」を一緒に勉強していきたいと思います。
「やっぱ、そうだよな〜!」というような話なので、気軽に読んでやってください。

【連載「革命のファンファーレ~現代の労働と報酬」】
第9回 モノが溢れている時代にモノを売るのは難しい。さて、どうする?

素敵な試みと、課題

テレビ至上主義の近所のお蕎麦屋さんの店員さんには完全に「オワコン認定」されている僕ですが、一応、細々と仕事をしておりまして、先日、10月に渋谷ヒカリエで開催される『THAT’S FASHION WEEKEND』の打ち合わせがありました。

その会議で意見を求められて、僕なりの結論を出すまでに、僕の頭の中で起きていた情報整理がちょっとだけ面白かったので、今日は、それを共有させていただきます。

イベントのテーマは『サスティナブル』で、今回は人気ブランドと、お花屋さんが一堂に会し、「衣服ロスと、ロスフラワー(廃棄される花)を、なんとかしようじゃないの!」というもの。
チャリティーセールです。

勘の良い方はお察しだと思いますが、イベントの趣旨的にも明らかに「プペルチャンス」で、先方さんも「プペルチャンス」だと思って、僕に声をかけてくださったのだと思います。
#プペルチャンスって何?

これから世界的にも、ゴミ問題と向き合う時間が増えるので、プペルチャンスは増えていくのかなぁと思っています。
あの日あの時、『ゴミ人間』に目をつけた西野を誉めてあげたいです。

さて。

今回のイベントでは、「アパレルブランドさんから安く買い取った服を販売し、そこでも売れ残った分に関しては、服飾学校の学生さんにまわして、リメイクしていただき、また新しい服として世に出す」という試みが行われます。

とても素敵な試みだし、応援させていただくことは決めたのですが、気になった点が2つありました。
以下の2つです。

①学生さんがリメイクした服を買いたい人はいるのか?
②「服を買ってもらう」ということは…

①に関していうと、「学生さんがリメイクする」というは最高なのですが…それを買う人がどれぐらいいるんだろう? という問題です。

正直に言うと、「リメイク前」と「リメイク後」を並べた時に、僕なら「プロがデザインした(リメイク前の)服の方が欲しい」と思っちゃうかもしれません。
#実際に見比べてみないと分かりませんが

理想は、「再利用することで、ゴミを無くし、雇用を生む」というところだと思うのですが、下手すりゃ、「コストをかけて、結果的にゴミになってしまうものを作ってしまう」ということになりかねないなぁ…という懸念がありました。

次に②に関して。

人間は基本、1日に着る服は1パターンで、「可処分ボディー」が確実にあります。
「可処分ボディー」とは、「服を着ることができる身体」のことです。
たった今、生まれた造語です。

基本、一人の人間の「可処分ボディー」は、どれだけ多くても年間に365体(365パターン)です。
ただ、年間365パターンは『神田うの』さんと『IKKO』さんぐらいで、僕たち一般庶民の「可処分ボディー」は、ワンシーズンで10パターンもありません。

新しく服を買ってもらうには、お客さんの今のヘビロテに立ち退いてもらわなくちゃいけないんですね。
そう考えると「服を売る」というのは、なかなか難しいゲームです。

そもそも大前提として、モノが溢れている時代にモノを売るのは難しい。

さて、どうしたもんでしょうか?

「……以上の2つの問題点があると思います」と言いながら(時間を稼ぎながら)、必死で解決策を探る西野です。

売れ残った服を「服」として売るから、難しいのでは?

会議に出た以上はホームランは打ちたいものです。
「問題点」を挙げた以上は、「代替案」を出すのが紳士というもの。

テキトーに場を繋ぎながら、必死で代替案を探しているうちに、「売れ残った服を『服』として売るから、難しいのでは?」という場所に辿り着きました。

よくよく考えたら、世の中の「服」は、まったく不足していません。

そもそも、服が余っているから、今回のようなイベントがおこなわれるわけで、人間に「可処分ボディー」がある以上、ここで「服」が売れたら、どこかで売れなくなる「服」が生まれてしまいます。

「そもそも、服が溢れた時代に服を売るのが難しすぎるし、売れたところで、社会問題は解決に向かってない」という話です。

ここまで辿り着けば、「服を、服以外の用途で販売してみよう」となります。

そこで、「余った服を繋ぎあわせて、地面も壁も椅子と柱も全て『パッチワーク』の空間を作って、『ゴミの街』という個展を開催して、全国を巡回して、【入場料】で回収すればいいんじゃないですか?」と西野。

話しながら思い出していたのは、二年前に行ったフィリピンの『ハッピーランド』です。
そこは、ゴミ山の中にある街で、勿論、解決しなきゃいけない問題はたくさんあるのですが、一方で、ゴミの凸凹道や、ゴミの下を潜るのは、空間(体験)として楽しかったんです。
#くれぐれもスラム街の魅力を語っているわけではありません

『ゴミの街』の入場料の売上が、運営スタッフの給料と、『ゴミの街』の処理費用(再再利用を含む)に充てられると、グルグルまわるし、ゴッリゴリに大人な話をすると、各地域で企業協賛を集められそうだなぁと思いました。

すべては編集作業である

さて。

今日の話は「こんな企画を思いついたよー」ではありません。
注目していただきたいのは、「今回の結論に至るまでの道筋」です。

今回、挙げた「問題点」は、過去、僕のサロン(西野亮廣エンタメ研究所)の中でも話題になった「可処分家の壁問題」「可処分スマホ画面問題」の転用です。

そして今回、解決策として出したのは、言うまでもなく、西野亮廣の伝家の宝刀『意味変』です。
※意味変=これまでとは別の購買理由を提案すること

絵本を『絵本』として届けるのではなく、『個展会場のおみやげ』や『インテリア』として届けたり、映画を『ギフト』として届けたりしたアレです。

つまり…

今回の会議では、「ゼロ」から何も生み出してないんです。
これまで使ったネタを掛け合わせただけの「編集作業」です。

すべてのクリエイティブは「編集作業」です。
ただ、僕の中で「あぁ、このケースだと、【体験】に意味変だな」という秒速の判断はあって、それをもたらしたのは、『情報』じゃなくて、『経験』なんです。

これまで、何個も何個も『意味変』をしてきて、『意味変向きなモノ』『意味変に不向きなモノ』『この場合の意味変は、こう!』という記憶を身体が覚えています。
これは、もう、訓練でしか手に入らない。
現場でしか手に入らないんです。

「思いつき」は天性のものではなく、「現場でおこなったテストの積み重ね」なので、たとえば「サロンで初見の技(意味変みたいなやつ)を、小さい規模で試してみる」というのは、結構いいんじゃないかなぁーと思って、今日はこんな話を皆さんに共有させていただきました。

移動個展『ゴミの街』の実現は少し時間がかかることなので、来年以降になりそうですが、なんか面白そうでしょ ?
これ、体験&編集で生まれたんです。

西野亮廣氏ポートレイト

西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1 本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。共著として『バカとつき合うな』。製作総指揮を務めた「映画 えんとつ町のプペル」は、映画デビュー作にして動員170 万人、興行収入24億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たす。そのほか「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」の長編映画コンペティション部門にノミネート、ロッテルダム国際映画祭クロージング作品として上映決定、第24回上海国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門へ正式招待されるなど、海外でも注目を集めている。

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TEXT=西野亮廣

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