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2020.11.27

LOVOTの生みの親、林 要の座右の漫画とは?【PLUTO・バリバリ伝説・風の谷のナウシカ・ドラえもん】

GROOVE X 代表取締役・林要氏

良心なきテクノロジーの恐ろしさを漫画から学んだ

会話の相手になるわけでも、家事の手伝いをするわけでもない。しかし、不思議と愛おしい存在になっていく。そんな“仕事をしないロボット”「LOVOT(らぼっと)」の生みの親が、ロボットベンチャー・GROOVE Xの代表、林 要氏だ。

「僕の人生の節目には、常に漫画の存在がありました」と話す林氏は中学生の頃、オートバイ競技を題材にした『バリバリ伝説』に影響を受け、進路を決めたのだという。

「レースに打ちこむ主人公の姿がカッコよくて、自分も高校生になったら二輪の免許を取ろうと決意。でも、僕の地元はバイク禁止の高校がほとんどで、県内有数の進学校だけが免許の取得を認めていました。当時の僕の学力では合格は到底無理だったのですが、猛勉強の甲斐もあってなんとか合格できたんです」

大学院を卒業後、トヨタ自動車に入社。レクサスブランド初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発などを手がけた後、ソフトバンクに招聘(しょうへい)され、感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」のプロジェクトメンバーを務める。一見、エンジニアとして順風満帆なキャリアを歩んできたようにみえるが、林氏の胸のうちにはずっとモヤモヤとした思いがあった。

「僕は宮崎 駿監督の作品が好きで、漫画版『風の谷のナウシカ』も学生時代、夢中で読みました。ナウシカで描かれているのは、極限まで発展した科学技術が文明の崩壊を招き、不幸になってしまった世界。それがすごい印象に残っていて、テクノロジーの進歩が必ずしも人を幸福にするとは限らないというジレンマを常に感じていました」

林氏は2015年にGROOVE Xを設立。それと時期を同じくして手に取ったのが、その後のビジネスの方向性を決定づけることにもなる漫画『PLUTO』だった。手塚治虫の名作『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」というエピソードを浦沢直樹がリメイクした同作は、高度に発達したロボットと人間が共生する近未来が舞台だ。

「『PLUTO』は、ロボットと人間の共存が引き起こす社会問題や事件をリアルに描きだしています。僕はこの作品を、人間のダイバーシティの物語として読みました。肌の色や性別、能力、個性が異なる相手と対立するのではなく、どう共存していくべきなのか。そんな問題を提起している。そして読み進めるうちに、社会の多様性を拡大するためのキーがテクノロジーの進歩であって、その方向性を間違うと人は不幸になってしまう、と考えるようになりました」

また、『PLUTO』との出合いは自身が理想とするロボット像をも変化させたという。高性能で人の代わりに仕事をするロボットを作っても、必ずしも幸福な世界ができるわけではない。仕事をしなくても、“ただ、人のことが大好きで、人に気兼ねなく愛でられるだけ”のロボットだからこそ、人間を元気づけられるのではないか。その思いを実現したのが、LOVOTだった。

ロボットと人間の理想的な共存関係。林氏はそれを『ドラえもん』に見出しているという。

「ドラえもんって便利な道具は出してくれるけれど、夢をかなえてくれるわけじゃないし、実は役に立たないロボットなんですよね(笑)。でも、ドラえもんがのび太の絶対的な味方であることだけは確か。ただ側にいてくれるだけで心強い。だからLOVOTは、“四次元ポケットのないドラえもん”のような存在でありたいと思っています」

 

『PLUTO』

『PLUTO』
浦沢直樹×手塚治虫
長崎尚志プロデュース
手塚 眞/監修
手塚プロダクション/協力
小学館 全8巻

世界最高水準のロボットたちが、何者かによって破壊される事件が起こる。自身もロボットである主人公のゲジヒトは、アトムたちと協力しながら事件の真相に迫るも、その裏にある大きな陰謀に巻きこまれていく……。「現代はAIの技術が進化し、ロボットと人間が共存する社会が広がりつつあります。でも、その使い方を間違うと悲劇が起こってしまう。テクノロジーの素晴らしさと恐ろしさの両方が見えてくる名作です」

 

『バリバリ伝説』

『バリバリ伝説』
しげの秀一
講談社 全20巻(文庫版)

『頭文字(イニシャル)D』などの代表作で知られるしげの秀一による、バイク漫画。高校生ライダー・巨摩郡(こまぐん)がオートバイにすべての情熱を注ぎこみ、アマチュアからプロレーサーとして世界チャンピオンになるまでを描く。通称「バリ伝」。「当時、高校生でバイクの免許を取りにいくのは皆、ヤンキーみたいな人ばかり。免許合宿ではずっとビクビクしていました(笑)」

 

『風の谷のナウシカ』

『風の谷のナウシカ』
宮崎 駿
徳間書店 全7巻

映画監督・クリエーターの宮崎 駿が、1982年にアニメ情報誌『アニメージュ』誌上に発表。’84年に映画化され、現在も日本を代表するアニメ映画として世界中のファンに親しまれている。「ナウシカと行動をともにする、キツネリスのテトが好き。特別な能力があるわけではないのに、一緒にいるとハッピーな気分になれる。こういう共存のあり方って、素敵だなと思うんです」

 

『ドラえもん』

『ドラえもん』
藤子・F・不二雄
小学館 全45巻
©藤子プロ・小学館

言わずと知れた、国民的な人気を誇る漫画作品。小学館にて連載が開始され、1996年に連載自体は終了したが、現在も映画の新作が製作されるなど、多くの国民に愛され続けている。「ドラえもんに出合ったのは、テレビアニメが最初です。子供の頃は未来の道具に憧れましたが、大人になってドラえもんの価値はそこではないと気づきました。僕のロボットの理想像ですね」

 

Kaname Hayashi
1973年生まれ。トヨタで「レクサスLFA」、ソフトバンクにて人型ロボット「Pepper」の開発に携わる。2015年にGROOVE Xを設立し、’19年に家族型ロボット「LOVOT」の販売を開始した。

TEXT=川岸 徹

PHOTOGRAPH=古谷利幸

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