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2020.11.22

隈 研吾×リシャール・ジョフロワ「IWA 5は日本酒の一大センセーションになる」

シャンパーニュの巨匠が人生を賭す日本酒「IWA 5」。日本を代表する建築家、隈 研吾の存在なくしてその誕生はなかった。プロジェクトの意義から来年完成の蔵のコンセプトまで、ふたりがその秘話を明かす。

隈 研吾×リシャール・ジョフロワ
リシャール・ジョフロワ(以下ジョフロワ):隈さんと初めてお会いしたのは2000年頃。ドン ペリニヨンのプロジェクトのためでしたね。

隈 研吾(以下隈):そう。あれは結局実現しなかったけれど、リシャール・ジョフロワという男の情熱、エネルギー、創造性、人柄に僕は惚れこんだ。だから今回、手を貸してほしいと頼まれた時にはふたつ返事で了承しました。

ジョフロワ:IWAにとって「蔵」の存在は欠かせません。なぜならそこはIWAが生みだされる場所だからです。それで今回、隈さんには一建築家としてだけではなく、包括的に携わってほしいと考えました。

隈:ドン ペリニヨンのプロジェクトの際、あなたは「場所」の重要性を語り、今回もまた「場所」にこだわりましたね。そして、日本の田園風景を愛している。そこで私の頭に浮かんだのが富山でした。

ひとつ屋根の下に凝縮したシンプルでミニマルな蔵

ジョフロワ:私が蔵のある場所を重要と考えるのは、その土地の景観が人をつくり、人が景観を育むからです。有機的で親密な絆を結ぶ、IWAにふさわしい土地を探す必要がありました。

隈:通常、プロジェクトの建築用地はクライアント側が用意するものです。しかし今回は、ともにたくさんの土地に足を運んだ。その甲斐あって最高のロケーションが見つかりました。このような試みは、私にとっても極めてユニークな体験でしたね。

ジョフロワ:蔵の設計について、私はひとつの屋根にこだわりました。それは富山の南砺(なんと)で見た大きな農家がきっかけです。中央に囲炉裏があり、同じ屋根の下に人と家畜が暮らしている。私は隈さんに、「私が目指しているのはまさにこれだ! 」と伝えました。酒の醸造所でゲストを迎え、もてなし、関係者が宿泊もできる。一貫して無駄がなく、ミニマルでシンプルな造りです。私たちがつくったこの世界観は、ナパ・バレーやボルドーなどと比べても先進的で前例のないものです。

隈:私の好きな慣用句に、「ひとつ屋根の下」という言葉があります。屋根の下で人々はひとつの共同体、家族になれるという意味です。性格の異なる人々であっても、ひとつ屋根の下では互いにつながることができる。

ジョフロワ:この蔵はすべてがシンプルでミニマルにつながっている。隈さん、このような蔵は日本でも珍しいのでは?

隈:ええ。通常、酒蔵が醸造所を建てる時は、製造現場としての醸造所を独立して建て、展示施設や販売所は凝ったデザインにして、まったく別の場所に造ります。IWAは醸造所、ショールーム、関係者の宿泊スペースをひとつ屋根の下に集結させた、日本でも前例のない蔵になります。リシャールでなければ思いつかなかった発想です。

ジョフロワ:私がよく使う表現が「コラボラティヴ・テンション(共創的な緊張感)」です。外国人である私がさまざまな要素に緊張感をもたらし、何か新しい発想を生みだす。IWAでは、新たな日本らしさを解放できればと考えました。

隈:そのとおり。リシャールのおかげで、日本の本質を見つけることができた。私たち日本人は、しばしば日本らしさを忘れてしまうことがありますから。

IWAの海外進出が日本酒ブームを逆輸入?

ジョフロワ:隈さん(と、一冊の本を見せる)。

隈:ああ、『陰翳(いんえい)礼讃』(笑)。谷崎潤一郎はよい例ですね。そうそう、桂離宮もドイツ人建築家のブルーノ・タウトが賞賛するまで、日本人は特別なものと認識していなかった。外国人からの刺激が触媒になることは、日本人にとりわけ重要です。

ジョフロワ:日本人は、まだ日本酒の素晴らしさに気づいていないのではないでしょうか。IWAが海外で紹介されれば、海外の日本酒ブームが日本にも逆輸入されるに違いないと考えています。

隈:あなたは日本中のあらゆる日本酒を試した結果、既存の日本酒では満足せず、日本酒を超える酒を造ってしまった。

ジョフロワ:IWAが受けた最も素晴らしい賞賛の言葉が「新しいセンセーションをもたらす体験」です。これは「紛(まご)うことなき日本酒だが、一般的な日本酒とは何かが違う」と認識していただいた証だと思います。隈さん、あなたはIWAを飲んでどう感じました?

隈:天国の味。大地から生まれたものなのに、口にすると天国へと昇るような気持ちになる。

ジョフロワ:重力を忘れ、上昇するような感覚、すなわち浮遊感は、シャンパーニュにとっても日本酒にとっても大切です。

隈:重力は人間にとって宿命ですが、無重力で浮かぶような、特別な感覚を覚えることがある。多くの建築家が重力を感じさせない、浮遊感のある建築を目指しているんですよ。

ジョフロワ:建築も酒造りも一緒ですね。多くの人がこのセンセーションを体験し、無形のつながりから新しい絆が結ばれることを期待しています。

 

Kengo Kuma
1954年神奈川県生まれ。’90年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。現在、東京大学特別教授・名誉教授。国内外で多数のプロジェクトが進行中。国立競技場の設計にも携わった。

Richard Geoffroy
1954年フランス・シャンパーニュ地方生まれ。一時は医学を志したが後に醸造学を学ぶ。’90年、ドン ペリニヨンの醸造最高責任者に就任。2018年をもって退任。

TEXT=柳 忠之

PHOTOGRAPH=J.C. Carbonne(隈 研吾)

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