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2020.07.16

現実は立場と時によって姿形を変えていくもの。ドリアン助川【ゲーテの名言㊹】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2008年4月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

現実というものは、それ自体では、どんな意味があろう?

――『ゲーテとの対話』より

物語の作り方を若き書生に伝授しながら、ゲーテは言った。現実を並べてもそれ自体に意味はない。我々が惹かれるのは、現実をどう捉えるかによって始まる詩人の理想の方なのだと。

たしかにその通りで、あらゆる事象は転変していく形に過ぎない。いつ、どの角度から見るかによって位置づけも意味合いも変わってくるのだから、私たちが追体験しているのは現実ではなく、その作者の視線なのだ。

そもそも現実とは、あってなきようなものだ。

毎晩酒宴が続く。山海の珍味に銘酒の数々。日々酔えて楽しいな。アハハハ。それも現実ではあろうが、過ぎれば内臓が壊れる。おまけに依存症になったりして、仕事が手につかなくなる。それもまた現実である。

素晴らしく美しい女性を恋人にできた。心身ともに桃色の高揚に彩られる毎日。周囲に鼻が高い自分。それはうれしい現実だろうが、その裏側では、彼女の言いなりになり、行動を縛られるきつい現実も始まっている。

あるいはこのスリリングな高揚とは逆の例。性欲の衰えである。これは男の墓場のように言われがちだ。もうあんなこともこんなこともできない。ほんと、老けちまったな、オレ。なんという哀しい現実だろう。だが、その年齢から落ち着いて仕事に集中できるようになったという人は多い。盛りの季節は極彩色だが、その分惑わされる。余計なことに気を取られなくて済むのだから、欲の減退もあながち悪くない。というこれもまたひとつの現実。

かように現実は、立場と時によって姿形を変えていくものなのだ。ならば詩人ならずとも、目の前の難題に対し、角度を変えて何通りにも見られる柔軟さを養った方がいい。ゲーテが言う理想の始まりがきっとそこにある。それは絵に描いた餅のような理想ではなく、また理論や理屈の先にあるそれでもないだろう。人の体温がきちんと伝わってくる、人間が人間として生きていくための理想である。

あなたは今、どれだけの問題を抱えているだろうか。どんな現実に直面しているだろうか。

ひょっとしたら、世間一般のものさしをそれにあてがい、世間一般の苦しみをモデルにして嘆いているところではないだろうか?

現実には意味がない。意味があるのは、あなたの受け取り方なのだ。すべての事象は、どの角度で見るかによって宝の山に変わっていく。

これもまたひとつの現実だ。

――雑誌『ゲーテ』2008年4月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。’15年、著書『あん』が河瀨直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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