プロフェッショナルが追求する“最高峰の視点”とは。第1回は、国の伝統工芸士の資格を有し、江戸切子の名品を世に送り出し続ける堀口 徹さんに密着。最高峰の技術をもつ三代秀石の目が見つめるのは、笑顔あふれる日本の未来だった。
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亡き祖父の技を追いかけ、「守破離」の道を歩む
矢来、菊、麻の葉など、繊細な文様が施されたガラスの器が、光を受けてきらきらと煌めく。アート作品のような美しさにあふれているが、普段使いしたくなる親しみやすさも兼ね備えている。江戸時代後期、東京で生まれたガラス工芸品「江戸切子」。その後、ガラス素材の研究や研磨の技法が進み、大正から昭和にかけては贈答品として重宝された。1985(昭和60)年には東京都の伝統工芸品産業に、2002(平成14)年には国の伝統的工芸品に指定されている。
そうした江戸切子を後世へと伝承していくために、現代に調和する商品の制作に励み続けているのが堀口切子だ。そのルーツは、1921(大正10)年に遡る。初代秀石の堀口市雄が江戸切子技術伝承者・小林菊一郎に弟子入りし、その後、1961(昭和36)年に江戸切子の作家の号である「秀石」を名乗った。現在は市雄の孫である堀口 徹が三代秀石となり、江戸切子の伝統を守り続けている。
「子供の頃、家のすぐ近くに工房があり、よく遊びに行きました。初代秀石である僕のおじいちゃんは小学1年生の時に亡くなってしまったので、働いている姿を見たことはありません。その後、工場長だった須田さんが二代目を継承しました。漠然とした伝統工芸への憧れと亡きおじいちゃんの後を継ぎたいと思い、中学生の頃には江戸切子職人になることを決めていました」
“守” - 師匠の教えを実直に
切子職人になるという決意は変わらず、堀口さんは大学卒業後、二代目秀石の須田さんに師事。技術を磨くとともに、堀口硝子では、商品企画や管理、お客様へのプレゼンテーションなど、さまざまな業務を学んでいく。
「20代は、守破離の“守”の時期。師匠に言われたことを守り、技術の向上を目指しました。お客様に提案する時も、今できる最高の仕事を提案。数少ない引き出しの中から、最も高い場所にある引き出しを使う感じです。とにかく一生懸命やるだけで、精一杯。相手の心を探る余裕なんてなかったですね」
だが、江戸切子職人として研鑽を積むうちに、徐々に相手の心が気になるようになってきた。
“破” - 相手の心に寄り添い、可能性を広げる
お客様が求めているのは、「本当に最高の技術を駆使した江戸切子なのだろうか、もっと安心感や親しみがある柔らかな江戸切子を望んでいるお客様も多いのではないか」と、考えるようになりました。相手の心を気にしながら、“こういう江戸切子もあるんですよ”と提案していく。現在の僕は、守破離の“破”の時期。既存の型を破り、異分野も含め、多くの方々から良い影響を受けながら、試行錯誤を繰り返しています」
その姿勢は、江戸切子の可能性を広げた。
「あれが江戸切子だったら素敵だな、これが江戸切子だったらおもしろいな。そんなことを自由に考えているんです。実現したものとしては、ポーラさんから依頼されて製作した江戸切子の化粧品容器。最近では、江戸切子のガチャガチャなんかも作ったりします。カプセルから、本物の菊花文のぐい呑が出てくるんですよ。これからも伝統と遊びのバランスを考え、両極端といえる要素を巧みに融合させていきたいですね」
“離” - 江戸切子の極へ
常に新しい視点を持ちながら、厳しい職人の世界で生きる堀口さん。健康管理にも余念がない。
「江戸切子を作るにあたって、視力はとても重要です。視力の低下は、技術の精度や加工の幅に直結します。そのためには、目の管理も大切な仕事。焦点が緩むと、カットが甘くなる原因になってしまいます。自分はありがたいことに、今のところ視力は左右ともに1.5。でも、年齢を重ねるに従い、視力が落ちてくるというのも認識しています。緑を眺める時間を増やしたり、目にいいといわれる食べ物を摂取したり。目の疲労を残さないために、目薬も上手に活用していますね」
最終的な目標は、守破離の“離”の域に到達すること。離とは、型を離れ、自己の研究を集大成し独自の境地に至ることを指す。
「離の域は、まだまだ遠く、はるか彼方(笑)。でも少しでも近づけるように、良質な視点を持ちながら、これからも職人の道を歩んでいきたいですね」
三代秀石 堀口 徹
Toru Horiguchi
1976年東京都生まれ。2008年、31歳で江戸切子作家の号である「秀石」を継承し、堀口切子を創業。’12年、江戸切子業界で14人(当時)しかいない伝統工芸士に最年少で認定。江戸川区の工場を3人の職人で運営する。
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