PERSON

2020.05.24

誰もが欠点を抱えていて、誰もがいびつなのだ。ドリアン助川【ゲーテの名言㉕】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2010年4月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

ドリアン助川【ゲーテの名言】

太陽が照れば塵も輝く

――『ゲーテ格言集』より

共通一次からセンター試験につながる「満遍なく点を取りなさいよ」的押し付け教育の三十年は、この国の力を萎えさせ、本当の意味でのユーモアの芽を摘み取ってしまった元凶ではないかと私は思っている。いびつさよりも平均的底上げを要求されたことにより、多くの人が、できることよりもできないことを、長所よりも短所を気に病む姿勢になってしまった。

というのが正しい指摘かどうかはともかく(いきなり無責任!)、この国には平均が気になる人が多い。自分がどうであるかということ以前に、まわりはどうなのかを知りたがる。周囲から少しでもはずれると、まるでなにか悪いことでもしたかのように心許なくなる。「みんなはどう言っているの?」「みんなはどうしているの?」と、親もまず子供にそれを訊く。その子の個性を伸ばそうとするのではなく、集団に埋没させる方向にもっていく。

人間はそれぞれが個性的だからこそ、組み合って和を作ることもできる。すべて万遍なく点が取れる人、すなわち個人でなんでもできる人間がいるとすれば、協調がないのだから、それこそが非人間的存在である。そんな人間を目指してどうするというのか?

誰もが欠点を抱えていて、誰もがいびつなのだ。だからこそ形になり得る。別の角度から見れば、誰もがなんらかの才能を持ち、それを活かした日々を送ることで輝ける塵となれる。他者を温めることもできる。

では、いびつな塵を照らす太陽とはなにか? それはあなたの良きところを最大限に伸ばしてやろうとする、いわば本来の親心にも似た眼差しである。うちの親はそうではなかったという人もいるだろうが、もっともふさわしい道を歩ませてやりたいという目で自分自身を見ることができれば、それこそが自愛になる。

じっとしていることができない人は、方々を訪ね歩く仕事を選べばいい。一点にしがみついて熟成していくのがお好みなら、作家として机に向かうことや、研究職もいい。この国を飛び出したいという人は、海の向こうからこの国と結びつく方法もある。

そうした選択はすべて、誰かがやってくれるわけではない。自身を照らす太陽。それは自分のなかにある。日の出を待つな。陽を昇らせろ。

――雑誌『ゲーテ』2010年4月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て'94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。'99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。'15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年6月号

楽園アイランド・ホテル

ゲーテ2025年6月号表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年6月号

楽園アイランド・ホテル

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ6月号』が2025年4月24日に発売となる。今回の特集は、ゲストを非日常の世界へと誘う“楽園アイランド・ホテル”。表紙には、小栗旬が登場。自身が所属する芸能事務所、トライストーンの大運動会や役者論について語る。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる