幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けているメジャーリーガー・大谷翔平。彼がアメリカ全土でも絶大なる人気を誇る理由は、その実力だけが要因ではない。ビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
グラウンドを離れれば、読書家
大谷を日本ハム時代から追い続け、今年で7年目を迎える。「どんな人?」などと聞かれることが多いが、なかなか説明が難しい。とにかく真面目で「世界一の選手になるため」に日頃の練習はストイックにこなすし、投打二刀流なので練習時間も長い。グラウンドを離れても体作りなどの本もかなり読み込んでいるから専門知識も相当なレベルだ。
個人的にはここ数年の大谷の「言葉選び」に感心させられている。今年のキャンプ中、打撃の現状について問われた時に「打撃練習の打球も"品のあるような打球"ではない」と返していたが、聞き手や読み手の想像を膨らませ、何をするにも華がある大谷らしい言葉だと感じた。メジャー1年目の2018年にアストロズのエース右腕バーランダーと初対戦した際にも「ここまで"品のある球"というか、スピードもなかなか経験したことがない」というコメントも残している。同年オフ、自身の打撃フォームについて「理想は野球を知らない人でも、いいな、きれいだな、かっこいいな、なんか打ちそうだなと思うのがベストかと思います」と語ったこともある。大谷は自身のプレーに美しさやかっこよさを求めているのがよく分かる。
投球に関しては「投げ心地」という言葉を日本ハム時代からよく使う。体に負担が少ない美しいフォームを追い求めると同時に、自分が投げていて最も気持ちが良い、最も良い球が投げられるフォームがベストなのだろう。初めてこのコメントを聞いた時は、やけに腑に落ちる言葉だっただけに感心したことを覚えている。
アドバイザリー契約を結ぶアシックス社のスパイクにはいつも「立ち感」をリクエストしているという。地面に対して、まっすぐに。聞き慣れないが、これも何となく 腑に落ちる言葉ではないだろうか。現在、大谷は投手でも野手でも同じスパイクを履いている。投手として左足を上げる時も、打者で左足に体重を乗せる時もバランス感覚を大事にしていることがうかがい知れる。
その他にも、日本ハム時代に本塁打を打った際に使った言葉で「芯詰まり」、「芯先」という表現も分かりやすかった。こちらは表現方法ではないが、17年WBCを右足首の故障で辞退した際には「底屈(ていくつ)している時が痛い」と説明していた。取材の輪が解けた後、私を含む多くの報道陣が「底屈って何?」と互いに聞き合って、スマートフォンで意味を調べていた。「底屈」とはつま先を下げる動き、足裏の方向に足首を曲げる動きのこと。大谷が普段から体についてよく勉強している証拠だろう。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でいまだ開幕日さえ不透明な状況が続く中、大谷は今、何を思い、どう過ごしているだろうか。この未曽有の困難を乗り越え、また大谷の言葉を伝えることが出来る日を楽しみにしている。