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2019.06.30

【松浦勝人】「僕は今、クラウドエンタテインメントに賭けている」

【画像】matsuura

数十年に一度の波に乗れ!

会長になって1年、さまざまな新規事業にチャレンジするなかでも、「これはもしかしたら」と思えるものがあった。この事業を進めるためにテクノロジー本部を作り、その下に「エイベックス・テクノロジーズ」という会社を設立した。ここで、エンタメ×テック×グローバルの事業を進めていく。テクノロジーズの事業はふたつ。ゲームとブロックチェーンだ。

音楽は、アナログからCD、配信、ストリーミングへと時代とともに形を変えてきた。映像も、テレビからビデオ、DVD、ストリーミングへと変化している。じゃあ、いったい次は何が変わるのかというと"ゲーム"。ゲームも、ゲームセンターから家庭用ゲーム、ダウンロードへと変化し、これからはストリーミングになっていく。音楽も映像もゲームもすべてストリーミングになり、クラウドから引っ張ってこれるようになると、これらがシームレスに重なり合い、今までになかった形態のコンテンツが登場する。

テクノロジーズではすでにコンテンツ開発を始めているけど、もちろんその内容はまだ話せない。あくまでも一般論として例を出すと、今、ダンスの動きのモーションキャプチャーは簡単にできるようになっている。従来はマーカーを身体につけ、わざわざ計測をしなければならなかった。今はカメラの前で踊るだけで、画像解析やセンサーを使って、簡単にモーションデータを取ることができる。あるいは、過去の映像から画像解析でモーションデータを抽出することもできる。

ということは、自分がスマホの前で踊って、デジタル空間の自分のアバターに、同じように踊らせることができる。クラウドを使えば、東京にいる人と、ロスにいる人が、同じ画面の中で同じ曲に合わせて一緒に踊り、ライヴ中継を公開することもできる。さらに、それを見ている人が、自分のアバターを使い、途中から飛び入り参加することもできる。

他に呼び方がないから仕方なくゲームと呼んでいるけど、僕たちが目指しているのは従来のゲームではなく、こういう新しい形のクラウドエンタテインメントだ。

変わるのはコンテンツだけじゃない。マーケットも変わる。従来のゲームは、プレイヤーだけが対象だったけれど、クラウドエンタテインメントでは、プレイする人、さらにそのプレイを見る人も対象になる。

しかも、ただ見るだけではない。格闘ゲームだったら、声援を送るとその声の大きさに応じて、応援しているキャラクターのパワーが増えるとか、自分が持っているアイテムをプレイヤーに渡せるとか、あるいは逆に妨害できるとか、見る人も対戦に参加できる仕組みがいろいろ考えられ始めている。

テクノロジーズのもうひとつの柱は、ブロックチェーン。先ほど、過去の映像からダンスのモーションデータを抽出できるという話をしたけど、楽曲でいえば、べース、ギターなどの楽器の音やボーカルの声だけ、アニメなら、画像解析でキャラクターや背景だけを抽出することができるようになった。こういうパーツを提供する事業ができないかと考えている。

でも、ただパーツデータを販売したのでは、違法コピーされて終わってしまう。そこをブロックチェーンで管理する。例えば、VTuberがアバターにアーティストのダンスを踊らせるとする。そのダンスデータが公式なものか否かは、ブロックチェーンにより一瞬で判別できる。

このように管理されたパーツを、二次創作をする人たちに提供できないだろうか。現状だと、彼らは、元の作品に愛情やリスペクトを持っているにもかかわらず、権利上グレーな状況で二次創作をせざるを得ない。もし公式のパーツを、正式な手続きを踏んで利用できるようになれば、堂々と二次創作ができるようになる。

これで儲けようとは考えていない。僕たちはIP(知的財産)を創りだす企業。創りだしたIPをどうやって広げるのかを考えるのが仕事。二次創作が広がることにより、元のIPも広がり、トータルでの収益を最大化することを狙っている。

日本のアニメが世界中に広がったのは、現地のファンたちが、自主的に自国語の字幕をつけてくれたことが大きかった。これは、厳密にいえば違法。でも、だから排除しろではなく、わずかな対価でライセンスできる仕組みさえあれば、ファンたちも堂々と、こういうことができるようになる。

IT企業はこういう仕組みを考え、作るのは得意だけど、IPを持っていない。本来、こういう仕組みは、僕たちIP企業が作らなければならない。そうしないと、IT企業が作ったプラットフォームで流通させるしかなく、手数料もIT企業に決められてしまう。

IPを持っている企業が流通の仕組みまで構築すれば、IPの種類や戦略によって手数料をどう設定するかまで、きめ細かく考えていくことができる。今までだったら、iTunesやNetflixのような巨大なプラットフォームを作ることは僕たちには難しかったけど、ブロックチェーン技術を使えば、仕組み作りから、その上に流通させるIPまで自前でやることができる。

ゲームは何十年ぶりかに、潮目が変わる転換期に差しかかっている。僕のなかでは、アナログレコードからCDに変わった時ほどの大きな変化。その頃は、小さな貸レコード店にすぎなかったけど、僕はCDの可能性に賭けて、在庫をすべてCDにした。周りのライバル店は、リスクを恐れて、半分アナログ、半分CDにしていた。やがてCDラジカセが発売されると、それを買った人はみんな僕の店にやってきた。

この賭けに勝ったことで、僕の貸レコード店は繁盛し、エイベックスを創業することになった。僕は今、クラウドエンタテインメントに賭けてみようと思っている。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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