ともに家業を継いだ、星野リゾート代表の星野佳路氏と、サンワカンパニー社長・山根太郎氏。「親の七光り」「二代目のアホぼん」と言われてどうしたのか? アトツギだからこそできること、なすべきこととは? 大先輩アトツギが若きアトツギにエールを贈る注目の対談後編。
先代経営者との並走期間は必要ない
山根 私は、父の死を機に後を継いだので、一緒に働いた期間はないんですけど、事業承継するにあたって先代経営者との並走期間は必要だと思いますか?
星野 承継したときに、先代が完全に退いているというのは、いいパターンだと思います。それだけ継ぐ側の優秀さが問われるけれど、自分ができる能力さえあれば、先代との並走期間は必要ありません。政権交代が完全にスムーズに進むから覚悟ができる。先代についている人たちからしても、もうつく人がいなくなったわけだから、覚悟ができますよね。
並走せざるを得ない場合は、うまく祭りあげておくといいかもしれませんね。そうすれば組織のなかの古いネットワークの部分は一応うまく回ることもありますから。
100年持続できるなら、いまの利益がゼロだっていい
山根 星野さんは、後継者についてどのようにお考えですか? 私は息子に継がせるのではなく、プロパー(新卒入社から在籍している生え抜き社員)から社長を出したいと考えています。
星野 優秀な人にしか継がせられない、それは大原則ですね。
しかし、私たちはファミリービジネスですからね。ファミリービジネスで大事な点は、バトンをつないでいくことです。これにはすごく深い意味がある。ある区間で1位を取るよりも、途中でコケないこと、とにかくつなぐことが大事だということです。
ファミリービジネスの良さは、アイデンティティをちゃんと引き継いでいけることだと思います。企業として不変の価値観をきちっと守っていくことが、顧客の安心感にもつながりますからね。
そこを求めるのでなければ上場すればいいと思います。でも私は、短期的な収益というか、株価というものを気にするより50年後、100年後のサステイナビリティを重視したい。100年後にも存続しているのであれば、いまの利益なんかゼロでもいいかもしれないわけでね。そういう経営判断ができるのが、ファミリーで100%やっていることの、最大の利点だと思っています。
山根 私も、まだちょっと先の話なので、もしかしたら考え方が変わるかもしれないですけど。
星野 そうです。考え方を変えたほうがいいかもしれないです。プロパーへ継承した企業をいくつも見てきました。初代プロパーはいいけれど、問題は、その次です。最初に継承されたプロパーの人は先代に対する忠誠心があります。でも、その次は、ファミリーへのロイヤリティなんてまったくないわけですよね。そうすると、ファミリーが大事にしていた価値観がだんだんぶれてきてしまいます。
アトツギだからこそ保守的になってはいけない
山根 私は父の後を継いだ当初、二代目であることに引け目を感じていました。「起業家はカッコいいけど、二代目はアホのぼんぼん」というイメージがあるような気がしていまして。星野さんはいかがでしたか?
星野 「親の七光り」とはよく言われました。親と対立していたので「若殿のご乱心」とも言われました(笑)。とんでもない息子が帰ってきて、お父さんは大変だねという感じで周りは見ていた。
でも、「若殿のご乱心」と言われたとき、私はうれしかったです。元々アマノジャクで、父親の周りの連中が「いいことをやってる」なんていう程度のことは、やりたくないと思っていましたから。彼らが分からないと言っているから、あ、自分がやっていることは正しい、のような(笑)。自分のやっていることに自信がありましたからね。
山根 それはすごい。
星野 アトツギの我々は、元々有利なところからスタートしています。環境がある程度うまく整って、少しの運があれば、日本のマーケットで競争力を発揮することはできるかもしれません。でも、そこで終わらせてはいけない。そこから再度、リスクを取って、世界で勝負できる競争力を持つところまでいかないといけません。
山根 私も何かにつけて「業界の異端児」と呼ばれるので、それは喜ばないといけないですね(笑)
星野 異端児を続けないとダメですよ。10年経つと保守になっちゃう元異端児はたくさんいます。
山根 わかりました。そして星野さんはご乱心を続けると。
星野 そうです(笑)
山根さんはいずれ、業界のリーダーになっていく、業界を背負って立つ存在に祭り上げられていくときがくると思います。そのときに、既成の商慣行とか業界のあり方を守ろうと思ってはいけない。世界に通用する業界になっていくためには、少々自分のところにダメージがあろうが、保守的になってはいけません。
星野リゾートも、いま日本でやっている事業展開は順調ですが、世界での競争力を見たらまだまだ超弱小です。やはり私は、世界に通用する日本発のホテル会社をつくりたい。だから、いまの良い状態を全部失ってもかまわないぐらいに割り切って、リスクを取って、海外運営に挑戦しています。
それがこの国にとっても大事だし、我々アトツギの使命ですよ。だって、元々七光りで継いだから、ある程度実力がついたら、普通の人が取れないリスクを取らなくてはいけないと思います。だから山根さんも、保守的にならずに攻め続けてほしいです。
山根 ありがとうございます。頑張ります。
Yoshiharu Hoshino
1960年、長野県生まれ。慶応義塾大学卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、先代の後を継いで1914年創業の星野温泉旅館 (現在の星野リゾート)4代目社長に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業において、1991年の社長就任直後から、いち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。
Taro Yamane
1983年、奈良県生まれ。関西学院大学卒業。伊藤忠商事株式会社繊維カンパニーを経て、2014年、先代の後を継いでサンワカンパニー代表に就任。異例づくめの施策で建築業界をリードし、「業界の異端児」と呼ばれている。著書に『アトツギが日本を救う』(幻冬舎)