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2019.04.28

【松浦勝人】「お金はあるところにはある。でもそれがうまく回っていかない」

【画像】matsuura

金脈は"古き"のもとにアリ?

2月7日に、東京・六本木にナイトクラブ「SEL OCTAGON TOKYO」がグランドオープンした。中に入ると、半分ぐらいのスペースはVIPのボックス席になっている。イベントによっても違ってくるけど、1ボックスの価格はかなり高額だ。それが15ボックスほどある。しかも、同じ人がずっといるのではなく、1日で2〜3回転はする。売り上げの大部分は、このVIPボックス席が占めている。

ロスでもラスベガスでも、クラブには必ずVIPボックス席があり、DJのすぐ横の席はものすごく高い。でも、そこから売れていく。そういうクラブを日本でもやりたいと以前から考えていた。やってみたら、日本でもVIPボックス席から埋まっていく。日本にも、お金はあるところにはあるんだなと思う。でも、それが世の中にうまく回っていかない。そこが今の日本の問題。

ある意味、格差社会の現実を突きつけられるような話だけど、一般のお客さんはどうでもいいということではない。VIPボックス席というのは「一度は入ってみたい場所」で、女の子はなんとかしてそこに入りたがる。男の子はモテるからと、どうにかしてVIP席を買いたがる。男と女の見栄が交錯するような場所。純粋に踊りたい人は、VIP席なんか気にせず、何千円かで入れるフロアで朝まで踊っている。楽しみ方はその人しだい、それぞれに楽しめばいい。

SEL OCTAGON TOKYOをオープンしたのは、2016年に改正風営法が施行されたことが大きい。クラブの営業時間が深夜1時までだったものが、条例を制定す
ることで早朝6時までの深夜営業が可能になった。クラブが犯罪の温床になっているという誤った認識を持っている人も多いため、エイベックスがきちんとした運営をして、こういう誤解を解いていきたいとずいぶん前から計画をしていた。実際、SELOCTAGON TOKYOも深夜から人が入ってくる。みんな楽しんでいて、危ない雰囲気などどこにもない。

風営法が制定されたのは昭和23年。70年も前の戦後の混乱期に、ダンスホールでいろいろな事件が起きて、それを規制する目的だったと聞いている。昭和59
年に大幅な改正はされたものの、その後2016年までは、当時のままだった。

日本では、こういう古い法律が今でも使われていることがよくある。例えば消防法。音楽と花火とパフォーマンスを融合した「スターアイランド」を、昨年末にシンガポールで開催した。しかし、内容は日本とはまったく違う。シンガポールの規制は緩やかなので、観客の目の前で花火を打ち上げることができる。ものすごい迫力で、爆発でも起きたのじゃないかと思うほど、身体に振動が伝わってくる。ライティングやレーザー光線による演出も、日本では航空機の安全な航行のため、細かい規制がたくさんある。

花火師たちは、シンガポールでは大喜びだった。彼らはただ伝統を守っているだけでなく、アイデアをたくさん持っているけど、国内ではいろいろ規制があって試せる機会が少ない。でも、シンガポールではすべて試すことができる。

このシンガポール版スターアイランドを日本の人たちにも見せてあげたいけど、残念ながらそのままの形では日本でやることはできない。アーティストの
ワールドツアーも同じで、ステージの前は10mあける、炎の演出には制限があるなどの規制があるため、ワールドツアーのステージセットをそのまま日本に
持ちこめない。そのため、日本がスルーされ、アジアの他の国で開催されることが多くなる。

コンサートやイベントなどで、ちゃんとした食事を提供するVIP席を作ることにも挑戦してみたいが、そもそも厨房設備のある会場がほとんどないし、あったとしても食品関連の規制があって、結局、お弁当を提供する程度のことしかできない。

時代に合わなくなった規制の問題は、政治家もすでに認識しているようで、東京五輪を目前に、大きく変えていこうという機運も生まれているようだ。風営法と同じように、いい方向に変わることを期待している。

日本の花火職人は本当に優秀で、シンガポールのスターアイランドに使う花火も、花火玉は日本国内で生産して、それをシンガポールまで輸送して使った。あれだけの精巧な花火を作る技術は日本にしかない。

コンテンツもそうで、日本ほどコンテンツの豊かな国はないと思う。伝統的なお祭りだって、その地域でやるだけではなく、海外に持っていっても演出しだいで十分に通用する。よさこい祭りもガーナでアフリカナイズされて、人気のダンスイベントになっているという話を聞いた。個人的には、青森のねぶた祭なんて、そのまま海外に持っていっても高い評価を受けるんじゃないだろうかと思っている。

日本の伝統イベントは、自治体が主催するものが多いので、原則無料になっている。でも、いい場所を取るために、昼間から席取りをして、暑いなかじっと待っているというのも何か違うのではと思う。一部分を有料のVIP席にすれば、多少の料金を払っても、始まる時間に行って、いい席で楽しめるほうがいいと考える人もいると思う。

それでマネタイズをして、職人たちに還元できれば、彼らはより大きな予算のなかでいろいろな挑戦をできるようになり、技術もさらに上がっていく。

伝統文化や伝統工芸の世界で一番大きな問題は後継者不足。日本の文化や工芸品は海外での評価はものすごく高いのに、先細りになって消えかねない状況になっている。これをどうやってうまくマネタイズして、職人に還元していけるかを考えるのも、僕たちの仕事なのかもしれない。きちんと還元できて、職人たちが試してみたいことを自由に試せる環境ができれば、若い世代が後継者になりたいと手を挙げてくる。そうすれば、日本の伝統文化は継承されていく。日本は、古い法律、古い感覚を変える、ものすごくいい時機を迎えている。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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