師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。第33回は、IRの仕掛け人と天ぷら職人。
日本版IRの仕掛け人・ローレンス・ホーが語る、橋井良彰
37年前、5歳の時に初めて父に連れられて日本に来て、天政(てんまさ)を知りました。先代が揚げてくれた天ぷらを食べている、幼い私の写真が残っていますよ。橋井さんにもその頃に初めて会っていますが、以来、天政はもうmany many timesです(笑)。私も妻も大好きなんです。
それで2007年に初めてマカオにホテルをつくった時、世界で最も好きな天政にぜひ入ってほしかった。でも、最高の料理を出すためには環境は重要。来てもらえるか、心配でした。そこで、自分からこの思いを伝えたくて、誰も介さずにひとりで橋井さんのところに行って、お願いすることにしたんです。そうしたら、yes!の返事をもらえて。この時は本当に嬉しかった。
ただ、当時のマカオはまだ日本のデザインに慣れていなくて、お店づくりでは苦労がありました。でも、橋井さんは辛抱強く現地のスタッフに説明してくれて、ありがたかった。以後も、絶対に妥協しない完璧主義を学ばせてもらっています。その姿をとても尊敬しています。
実際、日本にはもう300回は来ています。統合型リゾート、 シティ・オブ・ドリームスを造り始めてから、いつかは日本で、という思いは持っていましたが、実は10年も前から、何も言っていないのに橋井さんがいろんな人をご紹介くださっていて。
日本に来るたび、日本のよさを改めて感じます。世界のどこにも、こんな国はない。だから、もっと多くの世界の人に、日本を見てもらえる。そのお手伝いをしたいんです。もちろん、橋井さんも一緒に、です。そうすれば、橋井さんの苦手な飛行機でマカオに来てもらわなくても、もっと頻繁に会えるようになります(笑)。
天ぷら職人・橋井良彰が語る、ローレンス・ホー
幼なじみの、家族みたいな関係なんですよ。それでもマカオに店を出してほしいと、たったひとりで店に見えた時は、やっぱり感激しましたよね。じっと目を見て、「橋井さん、本物をマカオに持っていきたいんだ」と。ただ、僕も条件があった。日本の食材を使うこと、日本のシェフを出すこと。そうするとコストが高くなるわけです。でも、それをOKしてくれたんです。
マカオでのお店づくりでも、ちゃんと現場を見てくれていて。何が起きているか、細かくわかっていて、素晴らしいと思いましたね。こういう人だからこそ、一緒にやれるんです。しかもオープン後も、短期的なスパンではなく、長期的なスパンで考えてほしいと言ってもらえて。これは、本当にありがたい言葉でした。
日本人以上に日本人っぽい気がするんです。義理や人情、心がある。古風なんです。でも、やっていることは誰よりも最先端ですからね。ローレンスさんは日本のIR事業に本気で取り組んでいる。僕も全力で協力していきたい。
ただ、飛行機が苦手なので、海外にはなかなか行けないんです(笑)。「マカオのモーフィアスに来て」とよく言われますが、そうそう行けない(笑)。でも、これからローレンスさんが日本で仕事をすることになったら、そこで力を発揮したいと思っています。おじいちゃんの代からの付き合いですからね。もう死ぬまで全面協力ですよ。
統合型リゾートといっても、カジノをしない人だって多いんです。サービスや食への期待は、これからますます高まってくると思います。ローレンスさんはまさにここを重視したいと言っている。ですから、まさに私の出番なんです。
Lawrence Ho(左)
メルコリゾーツ&エンターテインメント・リミテッド会長兼最高経営責任者(CEO)。1977年生まれ。香港に育ち、9歳からカナダへ。投資銀行でのキャリアを経て、2004年にIR(統合型リゾート)の開発と運営を開始。米ナスダック上場。
Yoshiaki Hashii(右)
政よし代表取締役、天政 三代目。1968年生まれ。和幸商事にて経営を学ぶ。「お座敷天ぷら天政®」の各店舗をはじめ、国内外の飲食店のプロデュースや、食材輸出業も手がける。