藤田 晋率いるサイバーエージェントは今年で創業20年。いまや社員数4500人以上、IT業界のリーディング企業だ。サイバーエージェントとはどんな会社か――という問いに対し、多くの人が「人材」の会社だと答える。そこでサイバーエージェントで活躍するキーパーソン8人にインタビュー。第5回目は執行役員で、シロク代表取締役社長の飯塚勇太さん。サイバーエージェントの強さとは何なのか――。
新規事業なくしてネット業界ではサバイバルできない
サイバーエージェントから内定を得ていた大学4年のとき、他の内定者と組んで4人で写真共有アプリを開発しリリース。その1ヵ月後、アプリの人気ぶりを見た同社社長の藤田氏より子会社としてサービスを会社化させないかと声がかかった。
ユーザー数が急速に増える中、どうやってサービスを維持させるか悩んでいた最中の提案によって、会社を立ち上げることを決意。学生にして、株式会社シロクの社長へ就任した。
しかもサービスを伸ばすことに集中すべきと、「金は出しても口は出さぬ」を地でいく状態で、会社立ち上げ時に会社側から事業内容や資金の使い方についてとやかく言われることはなかった。
夢のように恵まれているというべきか、空恐ろしいというべきか。そんな経験を経てきたのが、飯塚勇太さんである。
「社長の藤田から、最初に話を聞いたときはさすがにとまどい、驚きました。ただ、サイバーエージェントに入ったのはいずれ経営に携わりたいと思ってのこと。意外にも早くチャンスが来たということかなと考えました」
経営に興味を持ったのは高校生のころのこと。
「当時、ライブドアや楽天がプロ野球に新規参入するかどうかというニュースが盛んに報道されている時期で、起業家や経営者ってどういう人なんだろうと気になり、あれこれ調べてみました。ああ、こういうカッコいい大人がいるんだ、ビジネスの世界っておもしろそうだ思ったのがきっかけです。
藤田の本やブログもそのころから読むようになって、それらがリアルタイムのニュースと連動しているのを見ると、まるで現実を舞台にしておもしろい小説が展開されているように感じられた。有名スポーツ選手が活躍する姿を見てプロを夢見るのと同じ感覚で、ビジネスの分野に身を置いて大きなインパクトを残す経営者になりたい! という気持ちが高まりました」
大学生になると、夢へ向けて具体的な行動に乗り出す。
「1年生の時からインターンシップを始めました。藤田は大学2年生から会社でアルバイトを始めたと本に書いてあったので、先んじようと考えてのことです。学生ながら、実際に企業で働くことで社会で通用するスキル、経験をダイレクトに得られてよかったです。
会社というものを眺めてみて感じ取れたのは、ビジョンの大切さ。どんな高さのどういう山にどれくらいの時間をかけてどう登るのか。それらをビジョンによってきちんと指し示すか否かで、社員のモチベーションや活性化具合はまったく変わってくるものだと思います。
会社がどこまで大きくなるかも、ビジョンが決めるのだと実感しています。たとえばサッカーなら『Jリーグ』だったり『ワールドカップ』といった戦いの場が明確で、その中でトップを目指す。でも会社は実社会に存在していて、カテゴリーや枠組みがありません。自らどんなポジションでどうなりたいのかという目指す未来像をはっきり示さないと、そこで働く人のモチベーションを上げられない。限られた領域内で圧倒的な1位を目指す会社、文字通りの世界一を狙う会社では戦略も戦術も変わってきますしね」
サイバーエージェントに入って、経営者・藤田晋に間近で接するようになると、ビジョンの大切さを再確認する思いだった。
「直接聞いたわけではなく、背中を見て学んだことですが、藤田はやはりビジョンが壮大で揺るぎない。かつ常にアメーバブログ、スマホシフト、いまならAbemaTVと、会社を次のフェーズに持っていく大きな決断を下し、ビジョンへと進んでいく。なるほどこれが経営の力なのだと感じます。
なぜビジョンをブラさず、大きな決断をしていけるのか。それは本気で会社を大きくしようとしていて、現状になどまったく満足していないということが大きいのだと思います。いまの規模で満足しているのなら、もう新しいことなんてやらなくたっていいはずですが、このインターネット業界で成長し続けようとするのなら、絶えず変化しなくてはならない。リスクをとることが一番リスクを低下させることなんです」
現在は、内定者社長として立ち上げた会社を成長に導きつつ、新規事業創出担当執行役員にも就き、新規事業コンテスト「スタートアップチャレンジ」や新規事業マネジメントシステム「スタートアップJJJ」など新規事業創出に関わる施策の運営に携わっている。
「インターネットの世界で会社を大きくしていくためには、常に新しい事業の芽を生み出すことがマスト。新規事業は成功することも失敗することもありますが、新規事業を生み出すことができる人材はサイバーエージェント内に多くいたほうがいい。
『スタートアップJJJ』は、まだ収益化していないスタートアップ事業の経営者が毎月集まって、各社のトピックスやKPIの共有などを行うほか、四半期に1回、時価総額を算定し、競いあったりしています。これらの仕組みのほか、『ヒストリエ』も過去の事例から新規事業に学ぶという点で大きな役割を果たしていると思います」
『ヒストリエ』とは社内限のプロジェクト史、これまでサイバーエージェントの中で生まれた事業やプロジェクト、子会社などに焦点を当て成功・失敗に至る経緯や歴史をまとめたものである。これが何巻にもわたる冊子として編まれており、ケーススタディとして非常に参考になるのだという。
「検証を重ねながら、新しいことに挑戦し続けるカルチャーを継承するうえで、『ヒストリエ』は象徴的ですし、実際に読めばたいへん役立ちます。ひもといてみると、創業からの20年で立ち上げられた子会社は約150社。現在、『スタートアップJJJ』に参加している事業数は25〜30ほどあり、新しいものへ向かう意欲は衰えていないと思えます。
新規事業は、サイバーエージェントの成長の要です。担当者としては、この分野に常にいい刺激を与えていきたい思っています」
Yuta Izuka
内定者の時に同期と写真SNS「My365」を立ち上げ、2011年にサイバーエージェントの子会社として株式会社シロクを設立、代表取締役社長に就任。’14年年、株式会社ハシゴを設立し、シロクと合わせて2社の代表取締役を兼任。現在は新規事業マネジメントシステム「スタートアップJJJ」の責任者も務める。