2017年12月、エイベックス新社屋がグランドオープン。完全フリーアドレス、ペーパーレス、さらにフリーランスたちが集うコワーキングスペースをつくるなど、働き方そのものを変えると噂されていたオフィス。松浦社長がその全貌を語る。
常識的なオフィスの中にいては、常識的な発想しか生まれてこない
新しい本社ビルは、社員からおおむね好評。僕としてはそれが一番よかったと思っている。
フリーアドレス制にすることに関しては、移転前は否定的な意見もあった。「無理なんじゃないか」という懸念、「自分の席がなくなる」という不安。でも思い込みでしかなかった。無理どころか、皆今のほうがいいと言う。前の部課ごとにデスクの島を作る固定アドレス制では、コミュニケーションが広がらず、無駄な残業の要因にもなっていた。ちょっとした打ち合わせも、会議室を予約しなければならない。そんなオフィスだったから、今のほうがいいと感じてくれている。普段からおべっかを使わないベテラン社員まで「こっちのほうがいいです」と言ってくれた。この人まで、そう言うぐらいだから大丈夫と安心した。
フードスペースでも、食事をしながら簡単な打ち合わせをしたり、コミュニケーションをとることができる。会社の中で、「人がぐるぐる回る感じ」が生まれてくればいいと思う。
ひと目で全体を見渡せて、風通しのよいレイアウト
僕たちは、やっぱり青山だと思う。窓からの風景の抜けがいい。青山通り側も反対側も、どっちも風景が抜けていて見渡すことができる。今、東京でこんな抜けのいい場所は、もうあまり残っていない。
オフィス内の抜けもいい。当初は、1フロアが広い方がいいと思っていたけど、そうするとどうしても、エレベーターホールを中心にオフィススペースが取り囲むレイアウトになってしまう。僕らのフロア面積は決して広くはないけれど、ひと目で全体を見渡せて、風通しのよいレイアウトになった。
ペーパーレスで仕事ができる環境にもしたので、デスクに紙資料が山積みになるようなこともない。オフィスの外も中も「抜け」がよくなった。
Mad+Pureであり続けるために
今年、僕たちは、新しいタグライン(企業理念)「Really! Mad+Pure」を掲げ、ブランドロゴを刷新し、そして本社を移転した。「Really! Mad+Pure」をわかりやすい言葉で言えば、「マジでそんなバカなこと、やっちゃうの?」。エイベックスは、ずっと「業界の常識はエイベックスの非常識」と言われ続けてきたし、僕たちもそう言ってきた。当たり前のことを当たり前にやっていても、新しいものは生まれない。企業は大きくなると、常識的なことばかりをやろうとしがちになる。それが成長を止めてしまう。エイベックスが成長してこれたのは、ともすれば世の中から「バカじゃないの?」と思われるようなことを純粋に、大まじめにやってきたから。それがエイベックスの源泉だった。
これから全員が、新しい仕事を始める時、企画を立てる時には、必ず「Madであるか」「Pureであるか」「MadかつPureであるか」、に沿ったものになるのかを考えてほしい。
僕は、この数年「僕たちはこのままでいいのか?」ということを悩み続けてきた。昔の成功体験をなぞるような考え方になっているんじゃないか。MadでもPureでもなくなってしまったのではないか。社員数300人ぐらいの時の、熱い空気を取り戻したい。それには、常識的なオフィスの中にいては、常識的な発想しか生まれてこない。4年前から進んでいた新社屋の計画を見直し、社員全員がMad+Pureになれるには、どんなオフィスが適しているかを議論してきた。そこから生まれてきたのが、この新社屋。
現状考えられる最善の環境を用意した。次は、ひとりひとりにMadなことにPureな気持ちで挑戦してもらう番だ。
働き方の根本を変えるオフィスの誕生
加藤グループ執行役員は、「今のエイベックスにイノベーションが生まれていない危機感が、計画の根底にあった」と言う。ゆえに改革を起こしやすい環境をいかに構築するかが、デザインの中心になっている。「フリーアドレス制にしたことで、同じプロジェクトに関わるスタッフが、部署の壁を越えて、同じ場所に集まって仕事をするという状態が生まれ始めてきました」。会議の時だけ集まるのではなく、すぐ横で仕事をする。これが濃密なコミュニケーションを生んでいる。「この場所で意味のある交ざり合いを起こしていきたい」。新オフィスはこれからも進化し続けていくという。