旅は、日常を離れた視点から、自分を俯瞰する機会をくれる。今季も各地に次々とオープンする個性派ホテル。そこには、脳内をリセットし、クリエイティヴな思考が刺激される、極上の非日常空間がある。ホテルを追いかけ世界中を駆け巡るホテルジャーナリスト・せきねきょうこが、リーダーたちのための最新リゾートを厳選する。【特集「旅して、遊ぶ」】
美術館のような旅館でアートな時を過ごす
瀬戸内海に浮かぶ直島は「アートの島」として、今や世界的に注目される名所である。宮浦港で観光客を迎える草間彌生氏の作品「赤かぼちゃ」や、それ自体がアート作品といえる建築家・安藤忠雄氏設計の「地中美術館」などが、島中に点在。古き懐かしい街並みと調和して、独特の世界観を生みだしている。
そんな直島に、2022年4月、「直島旅館 ろ霞」が開業した。オーナーは、岡山県美作市の老舗旅館「季譜の里」4代目の佐々木慎太郎氏。大学卒業後、33ヵ国をめぐり、その土地ならではの名所や遺産、美食、ライフスタイルを体感したという。
「ご縁があって、直島に旅館をつくると決めた時、この地の気候風土や豊富な地の食材などを生かした“おもてなしの旅館”を建て、国内外の観光客を迎えたいと思いました」と話す。
そして、佐々木氏が言う「おもてなし」の最たるものが、館内のいたる所に飾られる若手現代作家によるアート作品である。玄関から入ってすぐの庭園には、名和晃平氏のオブジェ、エントランスやレストランにも品川亮氏など若手のアート作品が展示され、まるで美術館を訪ねたような気分になるのだ。
「瀬戸内国際芸術祭の会場でもある直島には、海外からも多くの美術関係者や観光客が来訪されます。国内外の方々が、ここでアート作品に出合い、またお互いに交流していただける場になれば」
旅館スタイルの客室は、無垢の木材や土壁を多用した和モダンなオールスイート。玄関の障子を開けると、ほっと落ち着く空間へと誘われる。デラックススイートは、部屋に入ってすぐが畳のベッドルーム、その奥にコンテンポラリーなリビングがあり、一番奥に庭に面した広々とした露天風呂がある、暮らしを意識した造り。
これに加えて、プレミアムスイート、ろ霞スイートと3タイプあり、家族旅行など目的によって選べる。ベッドルーム等にも、現代アートが飾られるほか、さり気なく置かれた花入れなど調度も美しい。客室に飾られる絵画は、気に入れば購入することも可能だというから新しい。
五感で楽しめる工夫をこらした夕食は、京都で修業を積んだ料理人が仕立てる会席と寿司をおりまぜたコース。たっぷりと養分を摂って育つ瀬戸内の魚をはじめ、地の野菜、岡山県奈義町のなぎビーフといった豊かな食材を用いた料理が次々に登場する。
食後は、この旅館のさらなる魅力ともいうべき野外の囲炉裏へ移動。優しい火を中心に宿泊客が集い、お茶を楽しめる。
「アートを愛する人たちが、国を超えてここで語りあう。そしてまた、そこから新たな何かが生まれる。そんな場になっていくでしょう」と佐々木氏。
今後は、別棟の旅館をはじめ、ギャラリーや作家が滞在できるレジデンスなども建設していく予定だ。国際芸術祭とともに、直島の新たなアートの名所となるに違いない。
Naoshima Ryokan ROKA
住所:香川県香川郡直島町1234
客室数:11室
料金:¥100,000〜(1室あたり、朝食つき)