
凛として美しい「緒方」のカウンター席。一面の窓の先には庭園が広がる。
京の文化と技を次代に残す秀逸な宿で自分を磨く
「今後の日本建築の指標ともなる宿が誕生したことは京都的にも重要」と話すのは、江戸中期創業の京生麩(なまふ)店「麩嘉(ふうか)」店主の小堀周一郎氏。代々御所への出入りを許された老舗の当主で、京都文化に貢献することはもちろん、精進料理や京料理界を牽引する存在だ。
そんな小堀氏が訪ねてその稀な建築に惹かれ、真摯なもてなしの姿勢を感じたのが、2021年10月、岡崎に開業した日本建築のホテル「眞松庵」である。そもそも岡崎は公家の屋敷や藩邸、経財界人が別邸を構えた場所。その周辺には今も贅を尽くした荘厳な屋敷が残っている。

真・行・草の草を踏まえた茶室のような客室「暁 gyo」。木造建築の優美さに魅せられる。
一方で、京都では毎年多くの歴史的建造物が維持できず壊されていくなか、数寄屋の名工・中村外二(なかむらそとじ)工務店の技を結集したホテルが建てられた意義は大きい。さらに50年以上も前に同工務店が建てた離れを残したことは、伝統文化を守ることにつながると小堀氏は言う。設計は自然との一体感や日本の風土文化を尊重する建物に定評のある京都芸術大学特任教授の横内敏人(としひと)氏が担当、造園は桂離宮や西本願寺といった文化財も手がける花豊(はなとよ)造園が受け持った。そういう意味では京都の卓越した技と粋の頂点が集まり注力した、かつてないホテルなのだ。

中村外二工務店によって1966年に建築された離れ。
「中村外二工務店が長い年月をかけて保存してきた貴重な木材を惜しみなく使っていらっしゃる。それらを見られるだけでも素晴らしいのに、時を経た書院造りの離れとの対比を体感できるのがいい」と小堀氏。
4つの客室はそれぞれに違った趣を持つ造りになっているが、すべてに希少な木材が使われ、北欧の家具や左官の研ぎ出し仕上げの浴槽などが配される。椿の床柱や赤杉の船底天井といった凝った造りは、本格的な数寄屋の茶室でもなければ、なかなか見られるものではない。

左官の技が光る浴槽が配されたバスルーム。
「上質な建物や調度だからこそ、使い、触れていただくことで深い味わいが生まれます」と総支配人の高田有希絵氏も言う。
もうひとつ「眞松庵」が注目される理由は、1階に最も予約がとりづらいと言われ、美食家の憧憬の的だった日本料理の名店「緒方」が岡崎店を構えたことだ。本店の主・緒方俊郎さんが考案した朝食を部屋で味わえるというから見逃せない。

部屋で供される湯豆腐、焼き物、和物などの朝食。
世界に認められるであろう建築に泊まって心身を癒やし、一流の味に舌鼓を打つ。最高峰に触れる滞在がきっと自分を高めてくれると小堀さんが薦めるのも納得のホテルなのである。
SHINSHO-AN
住所:非公開
TEL:非公開
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Shuichiro Kobori
1972年京都府生まれ。江戸時代中期創業の京生麩の老舗「麩嘉」7 代目当主。大学卒業後マツダに入社。’98年麩嘉入社。2007年7 代目就任、’09年NYに精進料理店「嘉日」を開業。趣味はスポーツ観戦(主にラグビー)、早い時間から飲むこと。