2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
中田英寿という名のミステリー・トレイン
中田英寿との旅は、中田というミステリー・トレインに乗っているような感覚がある。訪問先は、基本的に中田が自分で選ぶ。なぜそこに行ってみたいのか分からないときもあるが、訪ねてみると想定外に興味深く、「なるほどこれを見たかったのか」と思わされることも少なくない。事前に大まかなスケジュールは知らされているが、当日の突然変更もあるし、思いがけない出あいもある。そういったこともまたこのミステリー・トレインの楽しみだったりする。
佐賀を旅しているとき、同行しているフォトグラファーの淺田創から何度か「ちょっとクルマを止めてもらっていいですか」というリクエストがあった。クルマを止めると、カメラを持った彼は、しばらく景色を撮影する。そのタイミングは、ほとんど夕暮れ時。確かに空を見上げると、都会では決して見ることができないような色彩と奥行きのある夕景が広がっている。
「空気が澄んでいて空の色がきれいだし、日が沈む方向に東シナ海が広がっている。優しい夕方の光にきらめく海と島、それに照らされる山や田んぼがひとつのフレームに収まるから、写真に撮ったときのバランスもいいんです」(淺田)
東松浦半島には、海に向かう斜面に作られた棚田がいくつもある。「大浦」、「浜野浦」、「駄竹」などの棚田ごしに眺める夕景は、いつまでも飽きることなく眺めることができる。訪れたのは、ちょうど田植えが終わったタイミング。水を張った田んぼから小さな緑の稲が元気よく顔を出していた。これからこの稲が成長し、やがて黄金色の稲穂をつけるまで、この景色も変わっていくのだろう。
「夕日を眺める」なんて、スケジュール表には書かれていない。でも沈みゆく夕日を見ているだけで佐賀という土地の素晴らしさ、日本の景色の美しさを堪能することができる。こんな素敵な出あいがあるから、中田という名のミステリー・トレインに乗ることをやめられないのだ。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん"の"ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/