2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。今回の旅のテーマは「日本茶」。
日本茶は身近な存在なのに、味や製法の違いまで分かって飲んでいる人が少ない
「さえみどり」、「おくみどり」、「さやまかおり」、「あさつゆ」……これらが茶の品種だとわかった人がいれば、かなりのお茶通と言っていいだろう。「やぶきた」という名前には聞き覚えがある人もいるかもしれない。「やぶきた」は、米でたとえるなら「コシヒカリ」のような品種だ。現在、日本で生産されている茶の7〜8割はこの「やぶきた」だと言われている。
さらにここに「玉露」、「煎茶」、「番茶」、「ほうじ茶」、「抹茶」と茶の種類も加わると、さらにわけがわからなくなる。「煎茶」と「抹茶」の違いくらいなら分かる人も多いだろうが、「玉露」の製法や「番茶」と「ほうじ茶」の違いをきちんと語れる人がどのくらいいるのだろうか?
「日本茶は日本酒とよく似ています。身近な存在なのに、味や製法の違いまで分かって飲んでいる人が少ない。生産者のこだわりを消費者にきちんと伝えることができれば、若い人も含め、もっと多くの人が日本茶を楽しむようになると思います」(中田英寿)
若い人にもお茶の世界を知って、楽しんでほしい。そう思っているのは、嬉野市にある徳永製茶の三代目、徳永和久社長も同じだ。
「ペットボトル茶のブームで若い人がお茶を飲むようになったのは、とてもいいこと。でもペットボトルの味が本物のお茶だと思ってほしくはありません。本当においしいお茶の味を知ってほしいですね」(徳永社長)
工場直営店『茶荘 徳永』でいろいろな品種、いろいろな種類の茶を淹れて、その味の違いを楽しみ、さらに工場も見学。工場内には、茶葉を蒸す熱気と香りが満ちている。嬉野名産の釜炒り茶の製造工程も見せてもらった。
「釜炒りをすることで、味はどう変化するんですか?」(中田)
「さっぱりとした味わいになり、香ばしさが増します。数としては最近減りつつありますが、中国から伝来した嬉野の独特の製法ですので、守っていきたいと思っています」(徳永社長)
そして徳永社長の案内で連れて行ってもらったのが、樹齢340年を超えると言われる「大茶樹」。1600年代に嬉野茶の茶祖といわれる吉村新兵衛が皿屋谷一帯に茶の栽培を奨励した当時の1本が残ったものだという。
「嬉野茶の伝統を守りながら、自分なりの嬉野茶を作っていきたいと思っています。嬉野には若い茶農家も多いので、彼らともいろいろ話しながら、できれば海外にも嬉野の名を知らしていきたいですね」(徳永社長)
徳永製茶で飲んだお茶は、いずれも美味だった。もちろん品種や種類、製法によって味も香りも違うし、それぞれの楽しみ方もある。海外で人気が出る前に、まずは私たち日本人が日本茶についてもっと勉強したほうがいいのかもしれない。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん"の"ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/