デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは?
泊まったホテルは数知れず。自身もホテルのデザインを手がけ、ホテルに一家言を持つ森田恭通氏がアドバイスするホテル選びのポイントとは? ベッドもバスルームもダイニングも大事だが、一番大事なのものとは——。
快適に過ごせるホテルに秘められたデザインの工夫
仕事やプライベートで何を決め手に宿の部屋を選びますか? 仕事柄、国内外数限りなくホテルに泊まり、いくつかのホテルデザインも手がけたなかで、僕が気づいたことをお伝えします。
選ぶホテルがリゾートなら、テラスなどの屋外スペースがどれだけ部屋と一体化しているように感じられるかです。注目すべきは全面がオープンになるスライディングドア。間取りつきのサイトも多いので、必ずチェックしてください。
一方シティホテルの場合は、部屋がどの方角に向いているかが大切。ヨーロッパの文化財のような建物や、ニューヨークの煉瓦造りの味のあるビルが隣接するならともかく、窓から何が見えるかでテンションが変わります。同じ金額を支払うのなら、グーグルマップ ストリートビューなどで事前に調べ、部屋の向きはリクエストすべきです。
最近感心したのは、ブティックホテルの仕かけ人、イアン・シュレーガーが「エディション・ホテル」の次にプロデュースした、マンハッタンのロウワー・イーストサイドにある「パブリック・ホテル」。コストを抑え、無駄なものをそぎ落とし、それでいてセンスがいいんです。
すべてのタイプの部屋に泊まりましたが、マテリアルデザインはすべて同じ。基本、シャワーとトイレとベッドだけなのですが、徹底的にベッドにフォーカスした作りになっています。パブリックエリアにはタイプの違う3つのバーと、2つのレストランを配置し「ホテルのいろんな場所で遊んでください。部屋は寝るだけ」と彼の言わんとすることが伝わってきます。
一方、国内で最も感動したのは、瀬戸内海に浮かぶ旅館「ガンツウ」。全19室はテラスつきの客室で、海が見えるというより海の上で過ごす宿。ダイニングは採れたての食材を目の前に「何を作りましょうか」というスタイル。淡路島の寿司屋「亙(のぶ)」のカウンターもある。部屋にはほとんど灯りがなく、満天の星や対岸の街の灯りを眺めながらの旅を楽しめます。
そしてガンツウにも感じたのが、ホテルの滞在を最も左右する照明の存在です。理想とする照明は、立った時と座った時の目線の高さ、そして足元の3つの灯りがあること。このバランスが取れると、とても居心地のいい空間になるんです。そんな理想の照明なのが、ジョン・モーフォードがデザインした「パーク ハイアット 東京」です。
彼の照明デザインは実に素晴しく、エレベーター内の灯りが動きに合わせて調整され、ドアが開いた瞬間、フロアの明るさと一体化する演出。さらにライブラリーを抜け、チェックインして客室に上がった時の廊下の照明など、すべて計算し尽くされています。そして部屋は新宿の夜景をドラマチックに見せる、絶妙なライティングです。
実は先ほど述べた3つの照明バランスは、自宅でも実現可能です。一般的なフロアライトなどを利用して、この3つの高さの照明を部屋の対角線上に置いてみてください。すると不思議なほど部屋に奥行きが生まれ、ホテルのような落ち着いた雰囲気に演出できます。
食事が終わってくつろぐ時間は、天井のダウンライトは消して3つの照明だけで十分。ライティングはシンプルであればあるほど、部屋は居心地よくなるんです。