お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営し、新刊『未来のお金の稼ぎ方』を出版した起業家、児玉隆洋氏が「未来のお金」についてさまざまな分野の賢人たちに問う対談シリーズ。対話から見える、お金、経営、事業で成長するために持つべき視点とは──。
伸びるのは、周囲から応援される「素直でいいヤツ」
マーケティングから広告運営、ゲームアプリ提供など、デジタルを起点とした事業を展開し、東証プライムに上場中のCARTA HOLDINGS(カルタホールディングス)。そのCEOを務める宇佐美進典氏はスタートアップを支援する投資家であり、児玉隆洋氏のサイバーエージェント時代の元上司でもある。ふたりが成長する人、しない人について、また若い人に持ってもらいたい金融スキルについて語り合った。
児玉 2007年に新卒でサイバーエージェントに入社して、最初に配属されたテクノロジー部門の役員が宇佐美さんでした。その配属直後の面談で、自分はめちゃめちゃ叱られたのですが、覚えてらっしゃいますか?
宇佐美 覚えてますよ。当時の児玉くんは日焼けして真っ黒で頭もチリチリ。ザ・渋谷の若者という風貌で、当時の入社組のなかでも目立っていましたから、特に印象に残っています。あの時はどんなキャリアを描きたいのか聞いたら、いきなり「起業したい」って言われてね。
児玉 はい。実は自分でも結構恥ずかしかったのですが、本気でそう思っていたのでちゃんと伝えなきゃって。もちろん、「新卒で何も分かってない、世の中そんなに甘くない」と言われるのは覚悟の上でしたが、宇佐美さんはピシャリと「それはいいけど、組織で仕事する以上、まず組織に貢献することを考えるべきだろう」と。全然違う角度から、しかもあまりにも当たり前のことで叱られてしまったという。
宇佐美 あはは(笑)。児玉くんはたしか、営業で採用されたのに自分から希望してテクノロジー職に配属されてきたと記憶しています。理系出身ではなくても、当時はテクノロジー部署を立ち上げたばかりで人も少なかったから、やる気がある者は育てようという意向でした。会社として、そこに教育コストをかける前提で希望を叶えたわけだから、まずはその結果を出すところに力点を置いてほしかったんだよね。
児玉 いや、本当におっしゃる通りでお恥ずかしい。会社を立ち上げた今でこそ、人材に投資する重要性やそのコストの大変さは身に染みていますが、当時は「自分が投資されている」という感覚はまったくありませんでした。あそこでガツンと言っていただいたおかげで、仕事や組織に対する意識がバチッと変わったと思います。
宇佐美 当時は自分も若かったので、カチンときたんでしょうね。今ならそうは言わないかも。
児玉 と言いますと?
宇佐美 そういう思いがあるのは全然いい。だったら、こういうことが必要だよねと寄り添うと思います。そのほうが上から押さえつけるより、相手を冷やせますから。まあ、そういうことを言ってくる人は多くはないし、当時も児玉くんぐらいだったけどね。
児玉 はい。席に帰って「怒られちゃった」と同期に言ったら、みんなに「なんで?」って顔をされました(笑)。
PDCAは小さく速く回すほうがいい
児玉 そんな青かった自分も、今は新卒を採用する立場になりました。今年も5名採用したんですが、宇佐美さんの新卒採用の基準をお聞きしたいです。
宇佐美 まず、「素直でいいヤツ」であることですね。スペックや自己PRがどんなによくても、斜に構えた人とは一緒に働きたくないでしょ?
児玉 たしかにそうですね。
宇佐美 そして素直でいい子は、周りから応援される。そうすると、「自分のため」に働いていたときとは力のベクトルと強さが変わるんです。ラストワンマイルの力はそこで違ってくるから、素直な人柄であるかどうかは大事ですね。
児玉 応援してくれる人がどれだけ増えるかで、成果に対する執着が違ってくるというのはすごくわかります。自分も起業した当初より、ABCashの事業に共感して投資して下さっている株主の方がいる今のほうが、断然執着は強い。応援の力って、足し算じゃなくて掛け算のパワーがあります。そうか、応援される素質って重要なんですね。
宇佐美 それが企業にも自分にも結果として反映されていきますから。だからどんな仕事であれ、社会人ならば応援される人になることを目指したほうがいいですよね。それは自分の力をより引き出すことになるし、応援されて結果が出ると、仕事がもっと面白くなる。目の前の仕事に前向きに取り組め、周囲との関係や会社、世の中が自分の力で少なからずよくなっていくのを感じられると、永続的な成長ループを描けます。このサイクルをいかに早く体験できるか。成長はそこにかかっていると言っても過言ではないです。
児玉 そういう意味でも、自分は若手をどんどん抜擢して経験を積ませ、成功体験を味わってもらうことが大切だと思っているのですが、リーダーとして開花させるには、どんなアドバイスやフォローが有効でしょうか?
宇佐美 答えになるかわかりませんが、うまくいく人って、走りながら考えられる人だと思います。具体的には、PDCA(Plan→Do→Check→Act)を小さく回せる人。100%プランしてからアクションを起こすのではなくて、10%でもとりあえず行動に移し、そこから次に打つ手を考えていける人です。特に新規事業や新しいサービスを立ち上げるときには想定外のことが次から次に起きますから、PDCAを高速で回し、いかに素早く軌道修正できるかが重要。ユーザーや時代のニーズを敏感に汲み取り、臨機応変に調整していける人は結果を出します。
児玉 今のお話をうかがって思ったのですが、PDCAの速度を決めるのは、成果に対する執着心ではないでしょうか。というのも、組織のリーダーになるとメンバーに嫌われないようにとか、自分のスキルアップや昇格のことなどいろいろ考えすぎて動けなくなる人が多く、シンプルに成果にこだわるって意外と難しい。でも、その成果に対するこだわりの強さがPDCAをギリギリまで回す原動力になる気がします。
宇佐美 たしかにPDCAを大きく回す人って、執着心が薄い傾向にはありますね。綿密な計画を立てるのはいいのですが、きっちり作り込みすぎて、その通りにいかないとそこでもうストップしてしまうのは残念。壁を突破するときにはもう少し、融通を効かせるというか、遊びの部分が必要なんですよね。
児玉 決めた答えに向かって走るのではなく、走りながら答えを探していく感覚ですね。
宇佐美 そう。新しく何かを始めるときって、整備された道が用意されているわけじゃないから、レーシングカーに乗ってもしょうがない。オフロード運転を楽しむ気持ちで、どんな悪路でも極力ブレーキは使わず、ハンドリングとアクセルだけで進んでやるぜ、と。そんなイメージで取り組んでみるといい気がしますね。
後編(2022年10月14日公開予定)に続く