読者に薦めたいとっておきの1冊を、京大卒のオタク女子・三宅香帆が毎月ピックアップ! 今回は、罪を犯した息子に、父親はどう向き合うか。フランス国内でも大きく話題になった長編小説『夜の少年』をご紹介!
三宅香帆がお薦めする、不器用な父と息子の愛の物語
「高校生が選ぶフェミナ賞」をはじめ、多くのフランスの文学賞を獲っている本書。主人公はふたりの息子(長男のフス、次男のジルー)を育てているシングルファザーで、病気で妻を亡くしながらも、家族3人はお互いに支え合いながら仲睦まじく暮らしていた。しかし、フスが家族よりも友人と過ごす時間が増えてくると、日常にも変化が表れる。素行の悪い友達とつるみ始め、家での会話も少なくなり、父親との関係も悪化していく。そんなある日、フスが対立するグループの青年を殺してしまい……。
不器用な父と息子の間に横たわる溝、そして家族と向き合うことについて繊細に綴った小説だ。口には出さずとも、心では通じていると信じて疑わなかった息子が、いつのまにか自分の理解できない存在になっていた。そんな親子の関係は、時代や国が違っても普遍的なものなのだろう。
ラストに出てくるフスが父に宛てた手紙には感動すると同時に、胸が締めつけられるような切なさも感じられる。「親は子をどう愛したらいいのか」という問いを真正面から描く小説だからこそ、改めて親子関係について考えるのに役立つ一冊となるに違いない。
『夜の少年』
ローラン・プティマンジャン 著/松本百合子 訳 早川書房 ¥2,420
Text=三宅香帆
1994年高知県生まれ。書評家、作家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『女の子の謎を解く』等がある。