宇宙のゴミ問題を解決し、持続可能な宇宙開発を実現したい
人類が宇宙開発を始めて以来、衛星やロケットの破片など多くのゴミを宇宙に放出してきた。その「スペースデブリ」といわれるゴミは、互いに衝突を繰り返し、砕けて増え続ける。実はこのゴミは宇宙を漂っているのではなく、地球の軌道上を猛スピードで飛び回っているため、衛星や宇宙船にとって大きな脅威となる。現に衛星とデブリの大規模な衝突事故は起こっていて、国際宇宙ステーション(ISS)も、デブリとの衝突を避けるため軌道を定期的に変更しているという。
「このままだと軌道はゴミに覆われ、近い将来、衛星の打ち上げが不可能になるといわれています。弊社の使命はこの宇宙のゴミ問題を解決し、持続可能な宇宙開発を実現することです」
そう説明するのは、アストロスケールのゼネラルマネージャー、伊藤美樹さん。2013年に岡田光信CEOによって設立された同社は、「スペースデブリ除去」を掲げた世界で最初の企業だ。今年3月、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」の打ち上げが成功。現在は実験用デブリを宇宙空間で捕まえられるか、実証実験をしている最中だ。
「この『ELSA-d』は私たちが行っている『エンド・オブ・ライフ・サービス』のひとつ。今後打ち上げられる衛星が、将来、動かなくなってデブリになった際に回収に行くサービスです。壊れて動かなくなったクルマを片づけに行くロードサービスに近いでしょう」
衛星は壊れたり、寿命で運用を終了したりと、必ず使命を終える時が来る。ゆえに衛星打ち上げは、将来ゴミになるものを宇宙に放出しているともいえるわけだ。その問題を解決するために、アストロスケールはデブリ除去を含む「軌道上サービス」に取り組み、’30年までに定着させることを見据えている。
ロケット打ち上げ失敗それでも前を向く
会社設立から8年。その大きなターニングポイントは’17年の「IDEA OSG1」を載せたロケットの打ち上げ失敗だったと伊藤さんは語る。
「これは微小なデブリの大きさや位置を計測し、分布状況を把握するためのものでした。しかし、ロケットの打ち上げ失敗により実験はかないませんでした。最初は非常に落ちこみましたね。しかし投資家の方々は私たちを心配してくださり『続けてください』と温かい言葉をかけてくださったんです。その声が次の『ELSA-d』につながりました」
翌年には約56億円の資金調達に成功、「ELSA-d」の開発に本格的に乗りだした。
「ひととおり打ち上げの行程を見て学ぶことができました。その経験がありますから3月の打ち上げ成功の喜びはひとしおでしたね」
今後、衛星に宇宙旅行、エンタテインメント産業の参入と宇宙ビジネスは拡大の一途。ゆえにアストロスケールには多大なチャンスがあると伊藤さんは予測する。
「今、数千の衛星で地球上を覆いつくす『コンステレーションビジネス』が始まっています。これは地球のどこにいてもその会社のサービスが受けられるもの。ある企業は数千機のうち数%をすでに打ち上げていますし、他社もそれに続くでしょう。そうなればデブリの問題は切実で、そこに我々のチャンスがあります。また月に行くには、ゴミの層を超えないといけません。安全な宇宙旅行、宇宙ビジネス発展のため、弊社は縁の下の力持ちとして尽くしたいのです」
地上でSDGsが叫ばれる今、各企業は宇宙の持続可能性も考えなければいけない。そのためになくてはならない企業がアストロスケールなのだ。
『Astroscale(アストロスケール)』HISTORY
2013年 シンガポールにて設立
2015年 シリーズA で約9.1億円の資金調達を実施。東京オフィス開設
2016年 シリーズB で約39億円の資金調達を実施
2017年 シリーズC で約28億円の資金調達を実施。アストロスケール英国設立。「IDEA OSG 1」を打ち上げるも、ロケットの打ち上げ失敗により軌道に乗らず
2018年 シリーズDで約56億円の資金調達を実施。
横浜市戸塚に最初の地上局を開設。英国ハーウェルに、デブリ除去のための軌道サービス管理センターを設立
2019年 アストロスケール米国を設立
2020年 シリーズE で約55億円の資金調達を実施、
東京都から5億円の助成金を受領。アストロスケール米国が静止軌道衛星寿命延長市場に参入
2021年 ELSA-dの打ち上げ成功、実証実験に入る
※宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!