新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。
中国版ZARAとも言われるSHEINとは?
アフターコロナにおいて、事業成長を加速させるドライバーとして注目されたのが「DX」です。DXを上手く取り入れることができた企業とそうでない企業で明暗が別れたのは、みなさんご存知の通りだと思います。
このDXとは、デジタルトランスフォーメーションの略です。
DXは、スウェーデンの大学教授であるエリック・ストルターマン氏が提唱した概念で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされています。日本でも経済産業省が推奨していて、経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、より具体的に提唱しています。
アフターコロナの世の中で重要視されるDX。
具体的なDXの例としては、銀行口座の開設から日々の取引までを全てオンライン上で行えるインターネットバンキング、また映画や旅行のチケット購入をオンライン上でできるシステムがあります。
では、ファッションのDXはどうなっているでしょうか?
それでは、お金のトレーニング。「SHEIN(シーイン)」という中国の越境ECスタートアップがあります。SHEINは中国版ZARAとも言われており、Z世代では、知らない人はいないほどに世界的に注目を浴びている企業です。そして今や、ユニクロやZARAを脅かすかもしれないと言われています。そのSHEINですが、2020年8月にシリーズEラウンドの資金調達を実施しました。その時のSHEINの評価額はいくらだったでしょうか?
答えは、約1兆6000億円。スタートアップとして世界的にみても異例の大きさです。現在の日本の上場企業の時価総額ランキングでみても、上位100位に入るほどです。ちなみに出資した投資家は、ジャフコ子会社の「JAFCO Asia」、「IDGキャピタル」、プライベート・エクイティで有名な「景林投資(Greenwoods Investment)」、「タイガーグローバル(Tiger Global)」、「セコイア・キャピタル(紅杉資本)」、「順為資本(Shunwei Capital)」などになります。
では、このSHEIN。創業2008年のスタートアップですが、なぜこんなに評価が高いのでしょうか?
それはまず、Z世代からの人気が異常に高いということがあげられます。なぜなら、販売されている洋服の価格が、ZARAの半額以下の価格帯のものもたくさんあるのです。さらにデザインの種類も豊富で、最先端のトレンドの洋服を低価格で見つける事ができます。
ここでお金のトレーニング。ZARAやユニクロは、「Fast Fashion」と呼ばれていますが、このSHEINはなんと呼ばれているでしょう?
答えは「Real Time Fashion」。SHEINは、トレンドの服を今まで実現できなかった、ものすごいスピードで作ることを可能にしています。
昔のアパレル業界では、パリコレをなどのファッションショーをみて、半年から1年間のサイクルでファッションのトレンドを作ってきました。そこに現れて急成長したのがZARA。ファッション業界の革命児として一世を風靡しました。ZARAは2週間~3週間で商品を作る事に成功して、ものすごく早く店頭にトレンドの洋服が並ぶので爆発的な人気をつくりました。
そしてその速さを超えるのがSHEINです。SHEINは3日~1週間で商品を作り、売ることを可能にしています。ものすごいスピードで商品を作ってしまうのです。その裏には、SHEINの独自の生産工程があります。
デザインからプロトタイプ開発、調達、そして生産に至るまで全工程をコントロールしていて、その各段階は高度にデジタル化しています。その結果、ユーザーの嗜好性に向けて特製した新製品を、最速3日というペースで量産する事を可能にしているのです。まさに、トレンドの移り変わりのはやい現代にあったビジネスです。
アパレル企業でありながら、SHEINを支えているのは実はテクノロジーです。米国では、今年SHEINはAndroid上で、最も多くインストールされたショッピングアプリにもなりました。
アフターコロナで巨額の評価額になり、世界中の投資マネーの集まっているSHEIN。 アフターコロナでますます購買行動のオンライン化が加速し、またSNSの浸透によりCtoCの情報伝達も加速したことでトレンドの変化もはやくなりました。だから、「DX化(オンライン化)」「若い世代のトレンドキャッチスキーム」「製品化・サービス化のスピード」が重要視され、SHEINもこれだけ投資家の注目を集めているのだと思います。
そしてこれはファッションだけではなく、他の業界でも通じる世界的なアフターコロナのトレンドだと思います。
例えば投資する企業を選ぶとき、例えば新しいキャリアとして転職先を選ぶとき、例えば自分で起業して新しい事業をつくるとき、例えば新しいスキルとして何かを学ぶとき。アフターコロナで、一過性ではなく、世の中の新しい当たり前となった構造変化に注目すると、さらによりよい選択ができるのではないでしょうか。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。