暗号資産やブロックチェーンが持つ世界を変える大きな可能性について、さまざまなキーパーソンを取材していく新連載。今こそ知っておくべき、暗号資産の知識とビジネスへの活用例とは? 連載「キーパーソンを直撃! 暗号資産は世界をどう変えるか?」vol.1
暗号資産を知り尽くした男、加納裕三が語るビットコインの軌跡
暗号資産といえば、その代表格はビットコイン。昨年から今年にかけて、取引価格が一気に高騰したことでも話題となった。しかし、ビットコインについて「よくわからない得体のしれないもの」という印象を抱いている人も多いのではないだろうか。そこで連載第1回は、国内最大級の暗号資産取引所を運営するビットフライヤーの創業者であり、その黎明(れいめい)期から暗号資産に関わり続けてきた加納裕三氏に、ビットコインが歩んできた歴史とその現状について聞いた。
私とビットコインの出合いは2010年。当時勤めていたゴールドマン・サックスの同僚から噂を聞いて、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトの論文を読み、仕組みとして面白いなと感じたのが最初です。その時はまだブロックチェーンという言葉がなかったのですが、分散型ネットワークと暗号化技術によって記録の改ざんといった不正取引ができない点は納得できた。ただ、仕組み自体が安全かどうかと、ビットコインが信頼を得られるかどうかというのは別問題で、新しいお金として命が芽生えるには何か別の要素が必要だと思っていました。この頃はまだ、1BTC(ビットコインの単位)=5円とか7円で取引されていて、ビットコインなんて誰も知らない時代でしたね。
バブルを重ねていったビットコイン
ビットコインが最初に大きな注目を浴びたのは、’13年春にキプロスで起きた金融危機。危機前は1BTC=1200円くらいで推移していたのですが、あれよあれよという間に1BTCが10万円超にまで跳ね上がった。ギリシャ危機のあおりを受けたキプロスで、富裕層が国外に資金を持ちだすためにビットコインを利用したからだと見られています。おもちゃみたいな存在だったお金が、あっという間に100倍ちかくになった。さらに11月には、ドルを管理しているアメリカ連邦準備制度理事会のバーナンキ議長が、ビットコインなどの暗号通貨の価値を認める発言をした。その瞬間に「あ、ビットコインに命が入ったな」って思ったんです。
しかし同時にきな臭い話も少なからずあって、’14年にはマウントゴックス事件(ビットコイン交換所であるマウントゴックスのサーバーがハッキングされ、ビットコインが大量に流出)が起きて、暗号資産への不信感をさらに強める結果になってしまった。それまでがビットコインの黎明期だとしたら、ここから2年くらいが低迷期です。だいたい1BTC=2万円〜4万円くらいの相場でしばらく停滞していました。僕はこの時ビットコインを流行らせるために、いろんな関係各所と話をして法律制定への啓蒙活動などをしていました。
そして’16年の半ばくらいからバブルが始まります。’17年は仮想通貨元年とも呼ばれていて、年末には1BTC=230万円まで上がった。そして現在起きているのが、第二次バブル。今年2月にテスラがビットコインに投資したことで、1BTCが600万円を超えました。アメリカの上場企業が暗号資産による決済に対応し、既存の金融と暗号資産の世界がつながり始めた。暗号資産はもう、私たちの暮らしと不可分のものになりつつあると思います。
現実とデジタル世界をつなぐ架け橋に
ビットコインはこの先、デジタル世界への入場チケットのようなものになると私は考えています。デジタルアートをNFT(非代替性トークン)で販売するとか、メタバース(ネット上に作成された3次元の仮想空間)が普及するなど、今後、デジタル世界がより進化していく。そのデジタルの世界と現実の世界をつなぐ架け橋になるのがビットコインになる。
もちろん、投機的な価値も期待できるでしょう。1BTC=5円とかだった時代からは、現在のビットコイン価格なんて想像もできなかったでしょう。今後ビットコイン自体がどういう広がりを見せ、変化していくのか、私自身もとても興味深いです。ビットコインを支えるブロックチェーンという技術についても、知っておいて絶対に損はない。次回はそのブロックチェーンについて、お話をしたいと思います。
Yuzo Kano
ビットフライヤーブロックチェーン代表取締役。1976年愛知県生まれ。ゴールドマン・サックス証券会社にてエンジニアとして勤務後、2014年1月にbitFlyerを共同創業。日本ブロックチェーン協会代表理事も務める。
Illustration=細山田 曜