過熱し続けるスニーカーブームのなか、従来の概念を覆すような画期的なビジネスが次々と生まれている。そんなスニーカービジネスの最前線に迫った。
「モノの株式市場」で2次流通に革命を
ここ数年の世界的なスニーカーブーム。その熱狂の大きな要因ともいえるのが2次流通市場であり、今やその市場は1兆円規模にまで成長を遂げている。そのなかで重要な役割を担っているのが、2016年に米国で誕生したストックエックス。物の売買に株取引所と同じ仕組みを取り入れ、透明性の高い情報を掲示しながら売買を仲介するオンライン・プラットフォームだ。
COOを務めるグレッグ・シュワルツ氏をはじめ、3人で立ち上げたこのサービスはスニーカーを中心にウェアや時計、ゲーム機器など多くのアイテムを扱っており、わずか5年たらずで企業評価額38億ドルのユニコーン企業へと急成長を遂げた。
その軸となるスニーカー売買の仕組みは明快だ。購入したいスニーカーのサイズを選択すると、複数の売り手が設定した価格のなかでの最低出品額が表示される。金額に納得すれば、そのまま購入することができ、もっと安価で購入したい場合は希望額を入力。その金額をつける売り手が現れたら売買成立となる。また、過去の取引額の推移をグラフとして閲覧できるのも大きな特徴。ストックエックス側が価格を決めることはなく、需要と供給のバランスで健全に売買が成立する。
出品されるスニーカーは基本的に、新品の未着用品のみ。本物であることを保証するため、選りすぐりの真贋(しんがん)鑑定士がスニーカーを日夜鑑定。売り手が記載したサイズや色などの情報の正否をはじめ、50以上ものチェックポイントを確認したうえで真贋判定が下される。これらのシステムによってストックエックスは透明性や安全性を担保し、従来の個人間のスニーカー売買における懸念材料を払拭している。さらに真贋鑑定から得る情報が日々蓄積されることで、その価値と信用を積み上げているのだ。
スニーカーが人々を熱狂させる背景について、’20年に設立されたストックエックス ジャパンを統括するデュイ・ドーン氏はこう語る。
「今のスニーカー人気は〝カルチャー〞によるところが大きいと思います。特に、藤原ヒロシやトラヴィス・スコット、カニエ・ウエストなどカルチャーの世界で影響力のある著名人や、人気のストリートブランドがコラボなどを行うと、彼らのファンもそのスニーカーを求めて市場に流入してくる。それが活性化につながっているんです」
最近ではジャスティン・ビーバーやラッパーのバッド・バニーとコラボしたクロックスが話題となり、ストックエックスでの取引数も増加した。また、地域限定モデルの存在も世界的に売買を盛んにする要因だとドーン氏は話す。
「例えば、渋谷のミヤシタパークにも店を構えるKITHでは、パリ、ハワイ、東京などローカルの店でしか手に入らないモデルが存在します。そのため、日本のスニーカーコレクターたちはパリやハワイの限定モデルをストックエックスで購入する一方、東京限定モデルを出品し、それを世界中のファンが購入するという循環が生まれています」
’30年には3兆円にまで成長するとも予想されているスニーカーの2次流通市場。このブームはまだまだ終わりそうにない。
Feature 1:透明性の高い価格を実現する取引データ
ストックエックスの取引画面。購入価格や販売価格に加えて、株取引での気配値にあたる出品額と入札額などを見ながら購入可能。過去12ヵ月間の取引価格の推移を示したグラフや履歴は購入価格の目安に。
Feature 2:ネットでの売買を活況に導く徹底した真贋鑑定
オーセンティケーターと呼ばれる鑑定士は、商品知識だけでなくスニーカーやカルチャーに対しても情熱を持っていることが求められる。鑑定結果はデータベースに蓄積された情報により、99.95%の正確性を誇る。今の時代を象徴する職業だ。