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2022.03.01

【試乗】BEVはエンジン車を超えるのか!? エンジン車の父がつくるメルセデス・ベンツ「EQA」

電気自動車や自動運転、さらには旧車ブームやカーシェアリングの隆盛など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける本連載。第1回は、メルセデス・ベンツの電気自動車、EQAを取り上げる。EVに対して、エンジン音や加速フィールなど、クルマ好きにとっては「物足りないなー」なんて声もちらほら聞こえるのが現状だが、世界的な流れから、EV化は避けて通れないことは明白。一度フラットな視点でEVのポテンシャルや実力を検証してみれば、新たなる魅力に気づくかもしれない。

ベンツ1

Mercedes-Benz EQA250

“エンジン車の父”が作る電気自動車

ヨーロッパでは、いよいよ本格的に電気自動車の時代が到来しそうだ。
欧州自動車工業会の統計では、2021年にEU26カ国で販売された新車のうち、BEV(バッテリーに蓄えた電力だけで走る純粋な電気自動車)の割合は9.1%だった。ざっくりいって新車の10台に1台がBEVで、しかも対前年比で63.1%増だったという。

一方、日本ではどうかというと、2021年の販売台数に占めるBEVの割合は約0.9%(日本自動車販売協会連合会の資料より)。「発電の8割以上を化石燃料に頼る日本では、BEVが増えてもCO2排出量は減らない」という意見もあるけれど、世界の潮流を見誤ると、液晶テレビやスマホやパソコンや半導体のように、クルマもグローバル市場での競争力を失ってしまうかもしれない。

というわけでこのクルマ連載では、「次はBEVかも」とお考えの方のために、機会を見ながら最新のBEVを紹介していきたい。トップバッターはメルセデス・ベンツEQA。なぜこのブランドを選んだのかといえば、ガソリンで走る自動車の産みの親だから。“エンジン車の父”が考えるBEVとは、どんなクルマか?

ベンツ2

メルセデス・ベンツEQAは、全長4465mmと、日本の道路事情でも扱いやすいジャストサイズ。背の高いSUVというスタイルは床下にバッテリーを配置しやすいので、電気自動車と相性がいい。

これ1台で暮らせるのか?

メルセデス・ベンツEQAの「EQ」とは、電動化モデルであることを示すサブブランドで、末尾の「A」はAクラス相当であることを意味する。したがってEQCならCクラス相当の電動車、EQSならSクラスにあたる電動車、ということになる。

興味深いのは、せっかく「Mercedes-EQ」というブランドを立ち上げたというのに、メルセデス・ベンツEQAの外観からは、BEVであることを強くアピールする意図が感じられないことだ。ところどころにブルーの挿し色を用いてごく控えめにBEVであることをアピールしている以外はスタイリッシュなSUVで、普通の方がご覧になってもBEVだとは気づかないかもしれない。

ドライバーズシートに座っても、BEVであることを声高にアピールすることはない。液晶パネルとタッチスクリーンを組み合わせることで機能性を高め、レザーや樹脂素材の色艶で上質さと華やかさを表現する、最近のメルセデスらしいインテリアだ。
スターターボタンで起動してシフトセレクターをDレンジに入れるという、走り出すまでの一連の儀式もエンジン車と同じ。

ベンツ③

機能的で上質、適度な華やかさと新しさを感じさせるインテリアは、メルセデス・ベンツのエンジン車と共通のテイスト。初めてBEVに乗る方でも、まったく問題なく運転ができる。

ここで、メルセデス・ベンツEQAの狙いが見えてくる。エンジン車に慣れ親しんだ方でも、違和感なく乗り換えられるBEVを目指したのではないだろうか。
たとえば、電流が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターは、アクセルを踏んだ瞬間に前方に吸い込まれるような、“ワープ感覚”を提供するセッティングにすることも可能だ。けれどもEQAは、そうしなかった。静かで滑らかというモーターの特性を活かして、上品に加速する。

同じことは、ブレーキングの感覚からも伝わってくる。エンジン車の場合、走行中にアクセルを戻すと、エンジンブレーキがかかる。
BEVの場合は、このエンジンブレーキにあたる状態で、減速エネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄える。これを回生ブレーキと呼ぶけれど、減速中のフィーリングに「おや?」という違和感を抱くBEVも多い。けれどもメルセデスのEQAではそれがまったくないのだ。エンジン車に慣れたドライバーにとっても、ごく自然な感触だ。

さらに走らせると、このEQAがクルマ作りの王道を行っていることがわかる。まず、後席と荷室には充分以上のスペースがある。ゆったりとした乗り心地と、コーナーで踏ん張るしっかり感が高い次元でバランスしている。前を行く車両に追従したり、車線の中央を走るようにハンドル操作をアシストする安全・運転支援装置も最新だ。

安全に、快適に目的地に到着するクルマを作るという、まさに教科書通りの1台なのだ。つまり優れたBEVではなく、優秀な自動車。メルセデス・ベンツは、“エンジン車の父”というより、“自動車の父”であると実感した。

ベンツ4

1回の満充電での航続距離は410km(WLTCモード)。普通充電(AC200V)や、高速道路のサービスエリアやショッピングモールに設置される日本規格の直流急速充電器(CHAdeMO)に対応。自宅にメルセデス・ベンツが提供する充電用ウォールユニット(30A)を設置すれば、約11時間でフル充電できる。

1回の満充電での航続距離は、410km(WLTCモード)。BEVの場合、運転スタイルやエアコンの使い方によってこの値は大きく変わるけれど、まずまず電力消費に気を使いながら試乗した際には、300km弱が安心して走れる距離だった。

これをどう見るか? 平日は買い物や送り迎え、週末は小旅行という使い方なら問題ないはず。ただし、小旅行の目的地、ゴルフ場やホテルの駐車場に充電器が備わるかどうかは、確認する必要がある。参考までに、EQAは、交流普通充電や日本規格の直流急速充電器(CHAdeMO)に対応する。

他方、東京から大阪までノンストップで行けなければ意味がない、とお考えの方には、まだBEVは薦められない。いまBEVを選ぶのかどうかは、クルマの使い方や自身のライフスタイルと相談する必要がありそうだ。

ベンツ5

Mercedes-Benz EQA250
全長✕全幅✕全高:4465✕1850✕1625mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:2030kg
モーター最高出力:190ps
モーター最大トルク:370Nm
乗車定員:5名
価格:¥6,400,000~(税込)

問い合わせ
メルセデス・コール TEL:0120-190-610

Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター/編集者として活動している。

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クルマの最旬学

話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。

TEXT=サトータケシ

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