CAR

2021.10.31

ロールス・ロイス、ファントムから派生したビスポークコレクション

ロールス・ロイスの旗艦モデル、ファントムから派生したビスポークコレクション。車名の“テンパス(TEMPUS)”はラテン語で「時間」を意味し、神秘的な天文現象や時間、宇宙の無限の広がりからインスピレーションを得たという特別限定モデルだ。世界限定20台、そのうち国内販売はわずか1台。連載【NAVIGOETHE】Vol.62

NAVIGOETHE

大阪は梅田のメインストリートを走るファントムの姿はまさに威風堂々。ボディサイズは全長が5990mm、全幅は2020mmと大柄。全高は1645mmだから天井もクロスオーバーSUV並みに高い。心臓部には伝統のV12を搭載し、風切り音やロードノイズなどをすべて遮断。その優れた静粛性の高さと極上の乗り心地はオーナーのみが知る。Rolls-Royce Phantom Tempus Collection。¥80,000,000[参考価格]

宇宙と時間をテーマに掲げた至高のビスポークカー

オーナーにとって、それはまさにサプライズだったであろう。

大阪の中心地である梅田に位置するコーンズ コレクション梅田ギャラリーには、その日、朝早くから多くのスタッフが集まり、特別な1台の納車準備に取りかかっていた。通常はガラス張りのショールームだが、すべてのウィンドウはロールス・ロイスのワードマークがあしらわれたパープルのシートで覆われ、外からはまったく内部が見えなくなっていた。プラネタリウムのような天体照明の速度やBGMとのバランス調整。ゲストの動線と視線の動きの予想のもとに、迎えるスタッフの立ち位置や花束の渡し方のチェック。

助手席前にある100本の円柱

助手席前にある100本の円柱は、光を反射するよう職人の手で研磨されたもの。移する時に流れるフォームの光と影が波紋を描くように見える。

そしてアンヴェールのタイミングや最初の声のかけ方まで。それらはすべて、たった1台の特別なクルマを納めるために行われる入念な準備であった。この日の主人公であるオーナーは夕刻に梅田ギャラリーを訪れ、自身の新しい愛車と邂逅(かいこう)を果たす。そのクルマこそ世界限定20台、日本では唯一の一台となるロールス・ロイス ファントム テンパス コレクションである。

そのデザインには宇宙や時間といったさまざまなテーマが含まれており、なかでも最も重要なポイントは天文現象のパルサー(pulsar)からインスピレーションを受けているということ。宇宙の巨人とも呼ばれるパルサーは、1967年に英国ケンブリッジの天文学者ジョスリン・ベルによって発見されたもので、規則的なパルス状の電磁波を放出しながら視界に入るすべてを照らしだし、その抗しがたい磁力で周囲を引き寄せる。宇宙の灯台としても知られるパルサーは、現存する最も正確な宇宙時計として、常に時を刻んでいるのだ。

ヘッドライナー

ひときわ目を引くヘッドライナーには、天体現象のパルサーを、パルス状の可視光線や電波の光を光ファイバーと複雑な刺繍で神秘的に表現。

時は決して止まることはなく、また誰にも止めることはできない。だからこそ人間は強力な意志で時間を管理しようとしてきた。だがこのファントム テンパス コレクションでは「時のない世界」を意図的に展開し、時間という制約を排除した独特の空間をつくりだすことを大事なコンセプトとしたのだ。「時間をどう活かすのか」。壮大な宇宙のなかで、世界を自ら形づくっていく人のための特別な存在なのだ。

テンパスに乗りこむには夜の帳(とばり)が下り始めたころがいい。インテリアには光ファイバーによる照明と複雑な刺繍が組み合わされた「パルサー・ヘッドライナー」が採用されている。まるで天体から降り注ぐ美しい星空のようなシーンが表現されていて、壮大な宇宙のディスプレイはインテリアサイドパネルまで広がっている。さらにドアの内張りに渦を巻いている星雲のように描かれたライトパターンは、パーフォレーションによる製法。深みのあるレザー・コントラストの送り穴は、イルミネーションが点灯せずとも幻想的なムードを醸しだす。

イルミネーションドア

ロールス・ロイス初採用となるイルミネーションドア。そのドア内張りには、星の渦巻き模様が描かれている。何百ものイルミネーションは、流れるように配置され、深みのあるディテールが独特の雰囲気を醸しだす。

特にパッセンジャーシートの前にあるフェイシアに配された100本のアルミニウム円柱のインパクトは大きい。“時”に反する側面の“静止”を「フローズン・フロウ・オブ・タイム」として表現するこのユニークなアートワークは、時間の制限からの自由を表すために、時計という存在を敢えて省くことにした。美しく光を反射するように職工の手によって丁寧に研き上げられており、100本の円柱は固定されているにもかかわらず、美しい波紋が流れながら動いているように見えるのだ。

ファントム テンパスには、ロールス・ロイスのシンボルであるスピリット・オブ・エクスタシーの刻印がさまざまな部位に施されている。2020年にロールス・ロイスが自動車メーカーから「ハウス・オブ・ラグジュアリー」への進化を発表した時に展開された2次元での新しいロゴがすでにあしらわれている。またボンネットのマスコットの台座には、オーナー自身が決める「日づけと場所」を刻印することが可能で、各種記念日などの思い出を愛車に刻むこともできるようになっている。

新色Crystal over Arctic Whiteを採用

ボディカラーは、宇宙の神秘を表現した新色Crystal over Arctic Whiteを採用。ロールス・ロイスを象徴するスピリット・オブ・エクスタシーの台座には、オーナー自身の特別な日づけや場所が刻まれるなど、要所に時間の制約を忘れさせる、煌めきに溢れた専用意匠を備えている。

ロールス・ロイスは正真正銘のビスポークを求めるカスタマーのために、常にコーチビルドを提案してきた。それは選ばれたパトロンと職人の間だけで行われる特別なデザインの儀式であり、まさにオーダーメイドの頂点に立つ考え方である。この構想は紙に1本の線を引くことから始まるもので、そこから制約のない数々の傑作を創造してきた。このテンパス コレクションを手に入れたオーナーは、そのプロセスを少しだけショートカットすることができたかもしれないが、世界にわずか20台という希少性は何にも代えがたい。

ダッシュボードにはアインシュタインの「The distinction between past, present, and future is only a stubbornly persistent illusion.(過去、現在、そして未来の間の区別は、あくまでも幻想にすぎない)」という言葉が表現されている。究極のラグジュアリーはもはや哲学。オーナーにしか見えないこの世界こそ、本物の贅沢といえるのだろう。

 

ファントム テンパス コレクション

ロールス・ロイス
ファントム テンパス コレクション

ボディサイズ:全長5990×全幅2020×全高1645mm
ホイールベース:3770mm
エンジン:V型12気筒
排気量:6748cc
最高出力:571ps/5000rpm
駆動方式:FR
変速機:8AT
乗車定員:4名
車両価格:¥80,000,000[参考価格]

 

問い合わせ
ロールス・ロイス・モーター・カーズ大阪 TEL:06-4393-8823

TEXT=堀江史朗

PHOTOGRAPH=矢野晋作、コーンズ・モータース

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