CAR

2021.06.22

新しくも味わい深い!通好みなアウディの最新基幹モデル

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

日本にジャストな小さな高級車

LEDの前後ランプや様々な表示を可能とするマルチディスプレイメーター「アウディバーチャルコクピット」などの先進機能を積極的に取り入れることで、独自のプレミアム感を表現してきたのが、近年のアウディだ。そんなアウディの新たな象徴といえば、普及が目指される電気自動車の「e-tron」シリーズであり、2020年から日本導入を開始したことで注目している人も多いことだろう。しかし、新時代に向けた変革を進めるアウディだが、最近の改良では、従来の価値観でもあるドイツ車らしさも追及しているように思える。そんな想いを強くした一台が、多くのユーザーを抱える基幹モデルのひとつである「A3」シリーズの最新型車だ。

A3は、Cセグメントと呼ばれる、日本ではマツダ3やトヨタ カローラなどが収まるカテゴリーに属するがモデル。ただアウディの看板を背負うだけあり、小さな高級車という作り込みで、お値段もちょっと高め。デビュー時は、最も小さなアウディとして受け入れられ、'11年のA1シリーズ導入までは、最も身近なアウディとして活躍。今も日本の道路事情に最適なサイズと実用的なキャビンを備えるモデルとして、アウディを代表する1台として、多くのユーザーから愛されている。


最新世代となる4代目は、よりスポーティなデザイン。そしてアウディお得意の先進機能の強化が特徴だ。ボディタイプは、先代同様に5ドアハッチバックの「A3スポーツバック」と4ドアセダン「A3セダン」の2種類から構成させる。そのフォルムは、定番モデルとしての役割もあり、オーソドックスではあるが、幾何学模様を組み合わせた個性的なフロントマスクなどのアクセントにより、見事にモダンさを表現。従来型よりも、先進的かつスポーティなデザインに仕上げられている。

もちろん単にスポーティなだけではない。エアロダイナミクスも磨かれ、静粛性や燃費性能にも効果的な空気抵抗係数が、スポーツバックで0.28、セダンで0.25を実現。簡単にいえば、数値が0.3を切ると、優秀なので、A3はなかなかのものといえる。ただボディサイズは、先代よりも一回り程拡大。それでも、より上位となるA4以上にモデルと比べると、取り回し易いサイズといえる。


インテリアの質感の高さも、アウディの売りのひとつ。スポーティなデザインだが、軽薄さとは無縁だ。エクステリア同様に、立体感を強調するために、各部に幾何学形状をデザインに取り入れている。アウディお得意の先進機能として、デジタルメーターパネルと最新のインフォテイメントシステム「MIB3」を組み合わせる。新アイテムは、コンパクト化されたシフトレバーだ。先代まではメカニカルのシフトレバーであったが、新型では電気式に。最新のアウディにも電気式シフトのものは多いが、それらは従来のグリップ機能を受け継いでいたが、今度はシンプルなスイッチにしたことで、センターコンソール周りに広さを感じられるようになっている。

電気モーターのアシストを加えられるエンジン

グレード構成は、極めてシンプル。前輪駆動車の「30TFSI」、4WDの「40TFSIクワトロ」、そして高性能モデル「S3」の3タイプをそれぞれに用意。今回、フォーカスするのは、エントリーグレードとなる「30TFSI」だ。

30TFSIの最大のポイントは、エンジンと言ってもいい。なんと1.0L直列3気筒ターボエンジンにダウンサイズ。先代のエントリーエンジンは、1.4L直列4気筒ターボだったので、0.4Lの容量と1気筒を大胆にもダイエットしてしまったのだ。これにより、一つ下で、現在のアウディのエントリーモデルA1スポーツバックのエントリーグレードと排気量が同じになってしまった。


「ちょっと待ってよ、アウディさん」というファンの声も聞こえてきそうだが、もちろん、A3には秘策があった。それが48Vマイルドハイブリッドシステムだ。マイルドハイブリッドシステムは、通常のハイブリッドシステムのように電気モーターだけで走れる機能は備わらないが、エンジンに電気モーターのアシストを加えられるのが大きな特徴。だから発進時など力が欲しいときに、エンジンパワー以上の力が発揮できるというわけだ。そんな「30TFSI」の性能は、最高出力110ps/最大トルク200Nm。1.4Lターボと比べると、最大トルクこそ同じだが、出力は12psのダウンとなるが、如何に。

実際に、エンジン実力を試すべく峠道を走ってみると、1.0Lエンジンは軽快な吹き上がりを見せ、身軽に駆け抜ける。上り坂でアクセルを踏み込めば、欲しい加速は十分に与えてくれる。1Lマイルドハイブリッドエンジンの頑張りに驚いた。マイルドハイブリッドのモーターは、発電機とエンジンスターターとアシストモーターの3つの役目を持つ。アシストモーターは、クランクシャフトに繋がっているので、パワーを供給するだけでなく、エンジン負荷も軽減できるので、よりエンジンにも元気さが増すというわけだ。

さらに3気筒エンジンというのは、ちょっと特有の音を発するのだが、静粛性の高いアウディではそれも上手にオブラートに包む。言われなければ、1.0Lエンジンのクルマだとは気が付けない人も多いはずだ。そこもアウディらしいおもてなしのひとつだ。走り味と乗り味でも、ドイツ車らしい重厚さはしっかりと表現されており、安っぽさを微塵にも感じさせないのは、往年のドイツ車と重なる部分だ。気になるコンパクトになったシフトレバーも、意外と使いやすかった。これはニュートラルポジション(N)を起点とし、奥に押すと、「リバース(R)」。手前に引けば「ドライブ(D)」と通常のオートマと動作が同じためだろう。同じアウディのグリップ付き電気シフトよりも使いやすいので、研究を重ねたのだろう。今後、通常のレバータイプとコンパクトレバー式に集約されていくかもしれない。

「30TFSI」は、時代に合わせたダウンサイズによる環境性能を高めているが、同時にドイツ車らしいしっかりとした走りも表現してみせた。しかも乗り心地も良いので、エントリーながら、十分以上のクルマに仕立てられている。既存の1.4LターボのA3ユーザーの期待を裏切ることもないだろう。ただし、そこはスポーティ路線も得意とするアウディだ。最上位の「S3」を選べば、また別の世界を見せてくれる。

A3のエントリーとはいえ、プレミアムカーの看板を背負うため、「30TFSI」も、それなりに高価だ。ただアウディらしさやドイツ車らしさはしっかりと凝縮されている。寧ろ、往年のドイツ車ファンには、「30TFSI」のような味わいが、刺さるのではないか。見た目こそ最新だが、ドイツ魂が蘇ってきた感覚にもなった。この王道的なドイツ車風味の復活は、最新のアウディに共通するところが面白い。エントリーだけど、通好みなクルマ。それがA3 30TFSIの素直な感想だ。

TEXT=大音安弘

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