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2021.03.30

【試乗】普通なことが新しい! マツダEVの本気度とは?

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

EV化が急速に進むも、現実的ではない?

これまでも環境負荷の低減やエネルギー効率の向上を狙い、自動車の電動化は進められてきた。日本が得意とするハイブリッドカーは、その代表的な存在である。しかし、世界的にも日本のようなハイブリッドカー大国は極めて珍しく、まだまだガソリン及びディーゼルのエンジン車がメイン。将来的な環境対策、特に温暖化への影響が懸念されるCO2排出量の削減を考えれば、世界各国が掲げる自動車への厳しい環境規制もやむを得ないのだろう。

しかし、既に積極的なEV推進を進めてきた国を持つ欧州では、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカーでは生ぬるいと言うように、イギリスでは、2030年にエンジン車の新車販売を禁止すると発表。つまり全ての新車をEV(電気自動車)へと切り替えるようとしている。

この流れは世界各国で見られ、自動車大国アメリカで新大統領に就任したバイデン氏は、環境対策と雇用創出の両立を狙い、公用車全てをEVに切り替えとしている。この動きに歩調を合わせるように、自動車メーカーの中には、EVメーカーへシフトを図る動きも始まっている。

しかし、各国政府が掲げるほどのスピード感が、現実的な提案とは言い難いとも思えてならない。国ごとの事情の差はあれど、価格や電力インフラなどクリアすべき課題も多いからだ。ただ、EVが乗用車の選択肢のひとつとなっていくことは間違いない。既に自身のライフスタイルにEVの方が適していると考えている人もおり、ユーザーも着実に増えている。

それでもEVが現時点では特別な存在であるのは事実。それを裏付けるように、多くのEVは、様々な形で特別感が演出されていることが多い。それは豪華さや個性的なスタイル、強力なモーターなど表現の仕方は様々だが、現在の価格では、電気自動車であるという付加価値だけでは買ってもらうのが難しいのも確かなのだ。その常識に、真っ向から挑んだのがマツダ。なんとも普通なEVを送り出した。しかし、それは同時に凄いことでもある。

マツダEVは個性派SUV

マツダ初の量産EVであるMX-30 EVmodelは、その名が示すように、2020年10月に発売されたMX-30のEVである。MX-30は、クーペライクなスタイルとピラーレス構造の観音開きドア「フリースタイルドア」の特徴を持つ個性派スペシャルティSUVだ。通常のエンジン車は、マイルドハイブリッド仕様の2.0Lエンジンと6速ATを搭載している。そのパワートレインをモーターに置き換えたのが、EVモデルだ。しかし、外観上の差別化はほぼなく、見た目は全く同じ。クルマに詳しい人でも瞬時に見分けるのは難しいほど。もちろん、駆動用バッテリーや充電システムなど高価なEVシステムを搭載しているため、価格は451万円からと、エンジン車のMX-30の2倍近い。

だが、驚くべきは、そっくりなのが見た目に留まらないことだ。誤解を恐れずにいうならば、運転感覚もエンジン車によく似ている。いうまでもなく、EVなので走行音は静か。アクセルを踏み込んだ加速も鋭い。それでもエンジン車とそっくりと感じるのはどういうことなのか、その秘密を解明していこう。

敢えて隠したEVの特徴

その秘密は、ふたつある。ひとつめの秘密は、AT車で常識のクリープ機構を備えたこと。多くのEVは、モーターの反応の良さを活かし、アクセルペダルの動きと完全に連動させている。それをMX-30では、わざわざ制御でクリープ状態を作り出しているのだ。つまり、シフトレバーを「D(ドライブ)」にいれると、AT車と全く同じ動きを見せる。これは駐車時や渋滞時などノロノロした動きをブレーキペダルでコントロールできることを意味する。

またAT車同様に、減速と停車をブレーキ主体としているのも大きい。EVでは、減速時にモーターによる回生ブレーキで発電を行い、エネルギーを回収して効率を高める。その機構を活かしたアクセルオフ時の強い減速力を生み、アクセル操作での加減速が行える。その中には、アクセル操作のみで多くの運転シーンをカバーできる仕組みまで備えるものもある。ところが、MX-30では、EVの特徴を敢えて隠すことで、AT車と同じ操作感覚に仕上げているのだ。もちろん、ブレーキペダル操作時にも回生ブレーキは積極的に活用されるので、効率面での悪化の心配はない。ドライバーに分からないように、回生ブレーキとフットブレーキを使い分けているのだ。


もうひとつの秘密はサウンド。走行中の静かさが自慢のEVだが、MX-30では、車内にアクセルの動きと連動した疑似モーター音を響かせる。これにより、アクセルの強弱や加速感を音による体感でドライバーが理解できるようにした。つまり、エンジン車の運転で求められるものと同じ感覚を使って運転できるようにしているのだ。

先にも述べたが、もちろんEVらしい特徴もしっかりと備える。アクセルを踏み込んだ際の加速は、モーターらしい俊敏かつ力強いもの。変速ギアもないので、目指す速度まで直線的な加速を見せてくれる。静粛性もEVらしく、すこぶる静か。疑似モーター音も、感覚に訴えるのが目的なので、控えめの音量なのだ。

そして何よりも、駆動用バッテリーのユニットが車体剛性を高めるように設計されているので、ガソリン車よりもボディ剛性が高い。これが走行中の振動を抑えた快適な乗り心地を実現。そしてスポーティな走りも得意とする。もしガソリン車のMX-30と比較する機会があれば、2台は別のクルマじゃないかと驚かされるだろう。2倍の価格分までとはいわないが、それを縮める高い走りの質感が与えられているのだ。

弱点は航続距離

MX-30の唯一の弱点を挙げるならば、航続距離。搭載される駆動バッテリーの容量が小さいのだ。これはバッテリーの寿命まで考慮し、MX-30の生涯でのCO2排出量の削減を狙ったため。大容量バッテリーだと、結果的に大きな環境負荷低減が望めないからだ。MX-30 EVmodelのフル充電時の航続可能距離は、256km(WLTCモード)。これは気温や走行状況でも左右されるが、試乗時の約8割の充電状態では、約160kmの走行が可能となっていた。日常利用なら十分な容量だ。自宅や駐車場に200V普通充電設備があれば、駐車中に充電を済ますことができる。

しかし、ちょっと遠出しようとなれば、どこかで充電が必要だ。現在の日本の充電インフラを考慮すれば、用事や遊んでいる最中に、不足分を充電することがし易いとは言いにくいのが現状だ。今後、EVの普及が進めば、外出先での充電時に、他車とのバッティングが
生じ、余計な時間を割くことにもなるだろう。そうなればエンジン車並みに使える大容量
バッテリーのEVが欲しくなるのが本音だ。


もっともマツダも初の量産EVであるために、まずはマツダEVの訴求をMX-30の最大の任務と捉えており、販売台数もかなり限定的だ。そして、マツダの商品展開も、マルチソリューションを掲げ、ハイブリットカーやEVに加え、発電エンジン付きEV(レンジエクステンダーEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)の様々な電動車を展開するとしている。

発電エンジン付きEVには、なんとロータリーエンジンが活用されるというから楽しみだ。その走りや雰囲気でEVが特別じゃないと示したマツダ。その価格は、まだまだ現実的とは言いにくいが、電動車社会の多様性を示す勇気ある選択といえそうだ。

TEXT=大音安弘

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