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2021.03.02

【試乗】そろそろEV化!? 青く美しいアルピーヌA110の行く末

歴史ある名車の"今"と"昔"、自動車ブランド最新事情、いま手に入るべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

2017年に復活した伝説の名車

この青く美しいスポーツカーの物語の始まりは、1962年まで遡る。フランスの小さな自動車メーカー「アルピーヌ」は、新たなスポーツカーを送り出した。その名を「アルピーヌA110」という。アルピーヌは、ルノー・ディーラーを経営していたジャン・レデレが、1955年に設立した若いメーカーであった。クルマ好きであったレデレは、自らルノー車をベースとしたレーシングカーを仕立て、レースに挑戦するようになる。

そこで好成績を収めたレデレは、次の夢として、スポーツカーメーカーを目指した。アルピーヌ設立後、ルノー車をベースとした数々のスポーツカーが送り出した。その中で最も成功を収めたのが、A110であった。


A110は、小型軽量なボディに、4人乗り(または2人乗り)のキャビンを備えるスポーツカーで、エンジンを後方に搭載し、後輪で走るRRレイアウトのクルマであった。市販後は、モータースポーツでも大活躍。特にラリーでは、リヤエンジンによるトランクションの良さを活かし、'71年の欧州ラリー選手権と、ワールドグランプリに昇格した'73年の世界ラリー選手権でタイトルを獲得するなど大きな成果を残す。

そして、'77年まで生産が継続され、その歴史に幕を閉じた。それから40年もの歳月が流れた2017年のスイス・ジュネーブモーターショーで、復活を遂げたのが、今回の主役、新型A110である。それは前年に公開された新生アルピーヌのコンセプトカー「アルピーヌ・ヴィジョン」の姿そのものであり、重量級のスーパースポーツカーが全盛の現代に、小さく軽いスポーツカーが復活するという事実に、多くのクルマ好きを歓喜させた。

ミッドシップレイアウトを採用した新型

新生アルピーヌA110のスタイリングは、まさに往年のA110の生き写し。特徴的な4灯火ライトと低いノーズ、流麗なルーフラインと絞られたリヤスタイルなどの特徴をしっかりと受け継ぐ。もちろん、時代の流れもあり、パッケージングやサイズなどの異なる点も多いが、紛れもなくA110の姿をしている。

大きく異なるのは、そのクラシカルなフォルムに隠されたメカニズム。後輪駆動車であることは共通だが、エンジンを車両中央に配置したミッドシップレイアウトを採用。キャビンは、完全な2シーター仕様となるが、その潔さは、現代車に必要な機能や性能を備えつつ、A110であるための重要なファクターとなっている。


インテリアは、スポーツカーらしいレーシーな雰囲気を放つもの。丁寧な作りではあるが、過度な演出とは無縁。ダッシュボード上にあるタッチスクリーン式のインフォメーションシステムとデジタルメーターパネルなど現代的なアイテムを備えるが、これもドライバーへの走行に必要な情報を提供するためのいわばコドライバーだ。

車内の小物入れも最小限となり、カップホルダーすら存在しない。走りに集中しろと言わんばかりのストイックさである。ただ体をしっかりと支えるバケットシートや握り心地の良いステアリングなど、ドライバーに心地よさを与える機能には手抜かりはない。もちろん、現代車なので、エアコンやオーディオなどの機能も備わり、荷物のためのラゲッジスペースも大きくはないが、前後に確保される。二人分の荷物なら、なんとか飲み込んでくれる。意外にも旅を楽しめるGT的な顔も持ち合わせるのだ。

最大の武器は軽さ

試乗車は、アルピーヌの中で最も高性能な「S」というモデル。搭載エンジンは、全車共通の1.8L直列4気筒ターボエンジンだが、最高出力が+40ps向上され、292psを発揮する。走りのアイテムとして、軽量モノコックバケットシート、専用設定のサスペンション、軽量な鍛造アルミホイールなどが奢られる。

標準仕様のA110と比較すると、明らかに足は硬い。ただ軽量なボディの恩恵もあり、外乱による車体の変化が少なく、そこまでハードな味には感じさせない。ライトウェイトスポーツである点も現代のA110にしっかりと受け継がれており、その車重は、1100kg程度しかない。日本の小型軽量なスポーツカーの代名詞であるマツダロードスターの車重が990kg~1060㎏なので、軽さでこそ譲るが、ロードスターがノンターボの1.5Lエンジンを搭載し、最高出力が132psと半分以下なのに対して、A110Sは、2倍以上の出力を持つ。


つまりA110Sが、如何に軽いボディとパワフルなエンジンを組み合わせているのか、理解してもらえるはずだ。軽いボディにパワフルなエンジンという組み合わせは、かつてのA110Sの文法通りである。普段は軽快な身のこなしを見せながら、ロケットのような加速も味わえる。スポーツカーの醍醐味が凝縮され、その走りはステージを選ばず、痛快だ。

アルピーヌの未来はEVへ

ただ価格ばかりは、ロードスターのようにお手頃とはいえず、A110Sで864万円。しかし、その作りは、ハンドメイドの部分も多く、ボディ全体の96%にアルミニウムが使用される。また各部のパーツにも、1流のものを採用している。性能を磨くためにしっかりとコストがかけられているのだから、こればかりは仕方あるまい。

そんなアルピーヌにも、100年に1度といわれる自動車界の大変革の影響下にある。ルノーが'21年に発表した新たな経営戦略で、アルピーヌのEVブランドへのシフトを宣言。まだタイミングは明かされていないが、そう遠くない将来、A110は生産を終え、新たなEVスポーツカーが誕生することになるようだ。

もちろん、EVのアルピーヌは新たなスポーツカーの世界を見せてくれるだろう。しかし、クラシックとモダンの見事な融合を感じさせ、何よりも往年の名車A110の香りを強く残すモデルは、この今回の新生A110が最後となるだろう。それだけに、「今のうちにぜひ」と言いたくなる一台だ。

TEXT=大音安弘

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