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2020.07.14

ポルシェのオープンカー「ボクスター」が支持される秘密【クルマの教養】

歴史ある名車の“今”と“昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入るべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から“クルマの教養”を伝授する!

【画像】クルマの教養

ポルシェの魅力を凝縮した新エントリーとして誕生

その名を知らないものなどいないといっても過言ではない、ドイツのスポーツカーメーカー、ポルシェ。いまやSUVや4ドア、そしてEVまで揃えるが、多くの人にとっての憧れは、ピュアなスポーツモデルだろう。

【画像】クルマの教養

ポルシェは、大きく分けて二つのスポーツカーをラインナップする。最も歴史あるモデルであるとともに、いまなお主力モデルある911シリーズ。エンジンを後部に搭載し、後輪駆動を基本とするRR(リヤエンジン・リヤドライブ)と4人乗りを基本とするモデルで、このスタイルは、ポルシェ初の市販車となった356からの伝統だ。

そして、もうひとつがエンジンを車両中央に搭載し、後輪を駆動するMR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)のレイアウトを持つ2人乗りのモデルである。このモデルはオープンカーを「ボクスター」、クーペを「ケイマン」と呼ぶ。

【画像】クルマの教養

誕生から50年以上の歴史を持つ911に対して、ボクスター/ケイマンの歴史は浅い。初代ボクスターは1996年に新たなエントリーポルシェとして誕生。その誕生は日本が誇るライトウェイトオープンカー「ユーノス・ロードスター」のヒットが影響を与えたといわれる。欧州でも人気となったネオクラシックなスポーツカーに、「スポーツカー屋が作る本物のオープンスポーツを見せてやる……」と思ったかは定かではないが、最新の911と多くの部品を流用することで、ポルシェとしては手頃なスポーツカーを作り上げた。

911よりもぐっと価格が抑えられ、ポルシェ伝統の水平対向6気筒エンジンをミッドシップに備えるスポーツカーで、しかもオープンドライブまで楽しめるという欲張りなボクスターはたちまち人気となった。2004年のフルモデルチェンジで第2世代に進化。その翌年、第2世代のボクスターをクーペ化した「ケイマン」が登場し、バリエーションが拡大された。モデルを重なるごとに性能や質感も磨き上げられ、誕生当初のライトポルシェのイメージは薄まっている。

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新エンジンが賛否を呼ぶ!? 第4世代へ

今回、紹介する最新型ボクスターは718ボクスターと呼ばれ、'16年に登場した。'12年に送り出された第3世代のボクスターに大幅なアップデートを加えたもので、ビックマイナーチェンジともいえる存在だ。最大の違いはエンジン。ポルシェ伝統の水平対向エンジンであることに変わりはないが、自然吸気仕様の6気筒だったものを4気筒ターボへと変更された。この変更はケイマンにも実施され、それぞれ名称を718ボクスター/718ケイマンへと改めている。

スペックこそ異なるとはいえ、トップレンジの911同様に、水平対向6気筒エンジンを備えることに喜びを感じていたファンも多いはずで、このモデルチェンジに反感をもった人もいたかもしれない。これは先代911で実施された排気量を落とし、ターボ化を図ることで、効率を高めるライトサイジングという思想に基づくものだ。

【画像】クルマの教養

つまり、燃費とパワーの最適化を図るための改善である。しかし、ポルシェ自身も水平対向4気筒ターボの搭載に並々ならぬ決意を込めたことを示すのが、その718という名前だ。718は1960年前後に活躍したポルシェのレーシングモデルに由来する。その心臓にも水平対向4気筒エンジンが収められていた。

もちろん、単なるノスタルジーではなく、最新のレーシングカー「919ハイブリッド」も形式は異なるが、V型4気筒ターボ+ハイブリッドの組み合わせで、ルマンやWEC(世界耐久選手権)で大活躍している。この4気筒にもポルシェ伝統のモータースポーツフィールドで鍛えられた技術がフィードバックされているのだ。

【画像】クルマの教養

最新ラインナップでエントリースポーツを担う718ボクスターは、2.0Lの水平対向4気筒ターボエンジンを搭載。最高出力300ps/6500rpm、最大トルク380Nm/2150~4500rpmを発揮する。従来型に積まれた水平対向6気筒エンジンは2.7Lの自然吸気仕様で、最高出力265ps/6700rpm、最大トルク280Nm/4500~6500rpmであり、排気量を落としながらも、ターボ化により力強くなったことが分かる。とはいえ、正直に告白するならばポルシェといえば、やはり水平対向6気筒という想いは私の中にもあった。

718ボクスターに火を入れると、力強くも、やや荒っぽいサウンドを響かせる。それは、まるで今にも獲物に飛びかかろうとするハンターのようだ。もちろん、6気筒モデルも迫力に溢れるものであったが、もっと上品でリズミカル。やはり4気筒は……、なんて感情がよぎる。だが、街中へ連れ出してすぐ、4気筒エンジンの魅力に気がついていく。まず発進時のトルク感の良さだ。

【画像】クルマの教養

従来型よりも排気量は落ちたが、シリンダー数が減ったことで逆に1気筒あたりの排気量は1割ほど大きくなっているのだ。しかもターボ化により、低速トルクは厚くなり、発生回転数も抑えられ、日常領域でも最大トルクを得られるように。6気筒よりも4気筒の方がエンジン負荷は小さく、ターボ化によるレスポンスの向上も相まって、軽快さも増したように感じる。

4気筒化は実にスポーツカーらしい合理的な考え方に基づいているのだ。少し荒々しく、乾いた響きの4気筒サウンドも俊敏なスタートを決める718ボクスターのキャラクターには相応しいと思えてきた。アクセルオフでの荒々しい響きも悪くない。まさにポルシェの技術者の思惑に、まんまとハマってしまったのである。

【画像】クルマの教養

もちろん、RRの911と比べるとパワーやエンジン、駆動の違いもあり、受ける印象は確かに異なる。しかし、今回の4気筒化は良い意味で911への過度な意識が減り、ボクスター/ケイマンの魅力を見つめ直すことになったようにも思う。

何より718の方がサイズも都市向きだ。4名乗車と4WDである必然性がなければ、ぐっと抑えた価格でオープンドライブが楽しめる718ボクスターは、やはり魅力的だと思う。4気筒ターボイイね! と話を締めくくれば幸せなのだが、なんと今年になり、718に4.0Lの自然吸気水平

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フレッシュな4気筒ターボ、それとも伝統的な自然吸気仕様の6気筒か……。世に送り出したスポーツカーの性能を真面目にコツコツと磨いていくのも、職人気質の強いポルシェらしいやり方である。しかし、裏を返せばポルシェ・オーナーに次の手を見せることで、常に誘惑しつづけるともいえる。それもまたポルシェというメーカーの一面なのである。

古今東西のクルマ好きは、そこに悩み夢中になってきた。その伝統も今なお変わらぬことを教えてくれた718であった。

TEXT=大音安弘

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