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2022.08.09

天才アラーキーの幻の処女作に、プリント付きの超レア版が存在!─アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点で切り込む連載「アートというお買い物」。ときどき、お宝自慢をさせていただいているが、今回は荒木経惟さんのレア写真集復刻版(これもすでにややレア)とそのプラチナプリント付き、サイン入りの特装版について。【過去の連載記事】

写真集「センチメンタルな旅」

左:amanasalto版『限定復刻版「センチメンタルな旅」特装版』。右:河出書房版『限定復刻版「センチメンタルな旅」』。

あまりにも有名な愛妻との新婚旅行の記録

荒木経惟の私家版『センチメンタルな旅』は、1971年に自身と愛妻の陽子(1990年死去)との新婚旅行の記録である。電通の同僚だったふたりは社内結婚をした。このとき、荒木31歳、陽子24歳。

写真集は、荒木と陽子が京都と福岡(柳川)に新婚旅行した写真で構成されている。荒木はニコンFに20mmのレンズを付けていて、他にレンズは持っていっていない。

ファッション写真のようにセッティングされた写真に対抗するような声明を込め、自分の写真は“私小説”であり、その出発はこのホンモノの新婚旅行を撮影したものなのだという決意表明がある。その声明、宣言のとおり、その後の荒木の活動や表現の萌芽がこの写真集には満たされている。世界的に見ても最多の写真集を出版している写真家の原点がこれである。

1971年の私家版『センチメンタルな旅』のオリジナル版は1,000部限定、価格1,000円の自費出版だった。私家版で部数も少ないことから長く幻の写真集として、古書市場では高額で取引され、それは現在も同じである。

掲載された写真自体は海外での出版物や荒木の別の写真集、雑誌や解説書に一部がしばしば掲載されていたり、写真展でも目に触れる機会はあったのだが、写真集の形態で、しかも全掲載写真を一気に見る機会は少なかった。それが2016年、河出書房新社の創業130周年記念の事業として限定復刻された。このときの定価は5,500円+税。なぜ「限定復刻」なのかはわからない。荒木の意向なのか、出版社の周年事業ゆえなのか、オリジナル版写真集の所蔵者への配慮(?)なのか。ともかくすでに版元品切で、古書価は10,000円前後から上である。

復刻版はクロス張りのハードカバーになり、函が付けられている。荒木の声明文の英訳も追加。写真は解像度やコントラストがあまり優れず、これは紙焼きやオリジナルネガなどの写真原稿からではなく、元の写真集を原稿として作られたものだからである。

この「限定復刻版」のさらに特装版がある。つまり、「天才アラーキーの処女作である幻の写真集の限定復刻版の特装版」である。エディションは100部。これは河出書房新社が企画したものではなく、河出書房新社版をベースにオリジナルの函を付け、そこにエディション番号がスタンプされ、荒木のサインが書かれている。企画したのは写真雑誌『IMA』を発行するamanaの関連会社で、プラチナプリント事業などを手がけるamanasaltoだ(一時休業に伴い、現在、amasalto作品はamanaTIGPで取り扱い中)。

写真集「センチメンタルな旅」のプラチナプリントと本体

左:特装版に付属するプラチナプリント。右:通常版、特装版とも写真集本体は同じ。表紙では、写真館での結婚記念写真撮影時の様子を、なぜか縦位置写真を横に使っている。

この特装版には18×24cmのプラチナプリントが付属している。プリントは①新幹線の座席に座る陽子、②ボートに横になって眠る陽子、③ヒガンバナの周囲を舞うチョウ、の3種。いずれか一つを選べるようになっていた。

特装版書籍は、割安に作品まで手に入れることができるのでうれしい。ただし、数が少なく、販路も限られるので、美術書の版元からの出版情報やアートブックストアからの情報をまめにチェックするのがおすすめだ。

過去連載記事

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

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連載
アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

TEXT=鈴木芳雄

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