牛肉大国と呼ばれる日本には、まだ知られていない地元に愛され、食べ継がれる和牛が存在する。稀少ゆえに県外ではほとんど出会えない、広島が誇る「幻の和牛」比婆牛(ひばぎゅう)の美味しさに迫った。
広島ガストロノミーの衝撃
北は冷涼な中国山地、南は温暖な瀬戸内海に囲まれた広島は、遠出してでも味わいたい卓越した食材の宝庫。豊潤な土壌や美しい水など、自然の恩恵を受けて育まれる米や酒、バラエティに富んだ魚介類など、名産を挙げるときりがない。
そんななか、県外ではまだあまり知られていない「幻の和牛」と呼ばれるブランド牛、比婆牛がにわかに脚光を浴びている。
広島県の北東部庄原(しょうばら)市で、およそ180年前から脈々と継がれてきた日本最古の四大蔓牛(つるうし)のひとつで、生産頭数が少ないこともあり、これまではほとんどが地元、庄原で消費されてきた。広島市民ですら稀にしか食せないという、その味やいかに!
赤身と脂身のバランスがよく、フランス産ワインとも好相性
広島市白島にあるニース料理店「リュニベル」では、豊富な食材とともに、稀少な比婆牛をコースに組みこむという。オーナーシェフの今井良氏は、大阪や神戸のフレンチ店で修業を積んだ後、渡仏してニースのレストランで腕を磨いた。2016年、独立の地に選んだのは、海が近くてニースに気候風土が近い広島市だった。
「4年ほど前から扱い始め、生産地を訪ね、比婆牛の旨みに魅せられました。焼いて食べてみると、他の牛とはまったく違う。赤身に近い身質なのに柔らかい。噛めばかむほど、キレイな旨みが染みだしてくるんです」と今井シェフ。
赤身と脂身のバランスがよく、脂身の融点が低いこともあって、口に入れるとすっと脂が溶けていく。後味もさっぱりしているから、冷製料理にも適しているそうだ。
コースでは、脂がほどよく落ちたヒレ肉のグリルのほか、旨みが際立つカツレツを出すことも。筋の部分なども含めた小間切れ肉はパティにしてスライダーにするなど、余すことなく使いきる。「フランス産のワインとも好相性だから、ペアリングでさらに旨みを膨らませます」と言う。
“そこに行かなければ味わえない”新たな食の醍醐味を求め、広島へ足を向けたくなる。
COLUMN|幻の和牛「比婆牛」とは?
江戸時代の畜産家・岩倉六右衛門が優秀な牛を選出しつくった「岩倉蔓」。品種改良の後、比婆牛と名づけられた牛は、1966年から5年に一度開催される「和牛オリンピック」で2度全国制覇。
自然豊かな庄原地域でストレスなく育てられた牛はオレイン酸が多く、赤身と脂のバランスが抜群。すっきりした旨みが評判だ。
L’UNIVERS/リュニベル
今井氏が経験を積んだニースの一つ星「リュニベル」を店名に。広島の食材を大切に料理を構成。
問い合わせ
広島県 畜産課 www.pref.hiroshima.lg.jp/lab/topics/20221122/01