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2023.02.02

すし さとる|元ボクサーが握る、絶品マグロを味わえる恵比寿の鮨屋

断言しよう。今、自分のレストランリストに入れておくべきはカウンターの店だ。なかでも次世代を担う若手職人による店は絶対に行きつけにしておきたい。今から通って応援したい、10年、20年後の名店になる可能性大の鮨店から、今回は恵比寿の「すし さとる」を紹介する。

恵比寿「すしさとる」のカウンター

27歳で恵比寿に自身の店を構えた荒木氏。「6席と小さな店ですが、お客さんと一緒に楽しい空間にしたいです」。

拳に込めた決意と攻めの姿勢で若手職人の頂へ

高校時代はボクシングの強豪校でトレーニングに明け暮れ、プロの世界へ。21歳で引退し、料理の道に進んだのは、ボクシングと同じ情熱をそこに注ぐ決意があったからだ。

麻布十番の「秦野よしき」で6年。大将の「独立意欲のある人材しか欲しくない」という言葉が負けん気の強さに火をつけた。30歳までに店を持つという目標を、3年も前倒しでかなえることができたのは、短期的なスパンで自分への課題をクリアにする、ボクサー時代の“目標達成術”を、心と身体が忘れていなかったこともあるだろう。

2022年の7月、恵比寿に『すし さとる』をオープン。晴れがましい表情で店に立つ荒木悟氏は「年功序列ではなく、実力主義の時代にシフトしているということを親方や周りの先輩方から教えていただいた。自分も努力を重ねながら時代に順応していく力をつけたい」と話す。

若くしてひとつの目標をかなえたという自負はあれど、親方や自分を支えてくれる人への感謝は、常に心のなかにある。コースの最初に茄子の揚げ浸しを、最後にあんこで締めるのは修業した店のおかげで、今の自分があるという思いの表れだ。「おいで“ナス”」に始まり「“アン”コール」まで、大将ゆずりの小粋な“親父ギャグ”でお客を沸かせる術(すべ)も板についており、荒木氏をぐるりと囲むカウンターには一体感が生まれ、和気藹々(あいあい)とした雰囲気に包まれる。

恵比寿「すしさとる」の中トロ

中トロ(写真は ¥15,000のおまかせコースの一例)。鮪は豊洲の「フジタ水産」から。

恵比寿「すしさとる」の春子

春子。握りの最初に登場。「修業時代に親方に捌きを褒められて嬉しかったので、覚悟の春子として握りの一番手としてお出ししています」。

恵比寿「すしさとる」のほっき貝

ほっき貝。一瞬、表を炙り、裏に返して握ることでその香ばしさを楽しませる。いわく「一念発起、会心のほっき貝」。

そして、人懐っこい若き大将が「自分の店にとって、なくてはならない存在」と尊敬の念を抱くのが、鮪のプロフェッショナルこと、豊洲の仲卸「フジタ水産」の藤田浩毅氏だ。「出せる鮪しか出さない」というポリシーを貫き、卸先も限定。そのぶん、鮨店からの信頼は厚く、男気のある人柄に憧れる若い職人も多い。

荒木氏もそのひとりで「藤田さんが手当てした鮪は柔らかくて、鮪らしい酸味がある。自分を信頼して卸していただけることへの感謝の気持ちを込めて、ふじた巻きという中トロと赤身を使ったスペシャリテを考えました。藤田さんにも喜んでいただけて嬉しかったです」と顔をほころばせる。

つまみと握りを合わせて22品前後。“心技一体”で魅せるコースは、荒木氏の明朗な性格が伝わる1万5000円で供する。鮪はふじた巻きのほかに味の濃い赤身の血合いギシや和辛子をかませた中トロなどが登場。

かつての“リング”から、美しいカウンターへ飛翔の場を変えて。この場所で、次世代の鮨職人の頂点を目指す。

恵比寿「すしさとる」のふじた巻き

ふじた巻き。赤身の旨み、中トロの脂の甘みが口いっぱいに広がる。

恵比寿「すしさとる」のあんこ

あんこ。小豆を蒸して“ごま”かせない美味しさに。

すしを握る、恵比寿「すしさとる」の荒木氏

現在は女将さんとふたりで店を切り盛り。明るい性格で場をなごませる。

恵比寿「すしさとる」のボクサー時代のグローブ

ボクサー時代のグローブも話題のきっかけに。

すし さとる/Sushi Satoru
住所:東京都渋谷区恵比寿3-3-9
TEL:03-6456-3088
営業時間:18:00〜/21:00〜(一斉スタート)
定休日:不定休
座席数:カウンター6席
料金:¥15,000のおまかせコースのみ

TEXT=小寺慶子

PHOTOGRAPH=上田佳代子

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