GOURMET

2022.05.13

佐賀の美食と伝統工芸を堪能するプレミアムレストラン「USEUM SAGA」

まるで美術品のような人間国宝などの器で佐賀の美食を楽しむ、期間限定のプレミアムレストラン「USEUM SAGA(ユージアムサガ)」。好評を博した昨年夏の第1弾に続く「USEUM SAGA vol.02」が、2022年4月に開催。各回10組20人限定のプレミアムイベントに編集部が潜入した。

老舗「松の井」を舞台にした美食の饗宴

会場となったのは、佐賀県唐津市。玄界灘をのぞむ唐津は、大陸との玄関口として栄え、用の美を備える「唐津焼」や「唐津くんち」をはじめとする多彩な文化が育まれてきた城下町だ。今回の舞台は明治28年創業の老舗旅館「松の井」。料理長を務める森次庸介氏と、ロジカルペアリングの第一人者として国内外で高い評価を受けるソムリエ・大越基裕氏の饗宴が、4月16日(土)・17日(日)の2日間にわたって繰り広げられた。

左:森次庸介氏 右:大越基裕氏

「ワインは世界中からボーダーレスにセレクト。佐賀のお酒も織り交ぜました」と大越氏。次いで、「松の井」料理長の森次氏は「緊張しています」と笑みをこぼし、会場の雰囲気を和ませてくれた。森次氏は1990年唐津市生まれ。京都の名店「じき 宮ざわ」で腕を磨き、2011年に実家でもある「松の井」に戻り料理長を務める気鋭の料理人だ。

森次氏の手仕事と大越氏セレクトのドリンクが、どんなマリアージュを見せるのか。肥前名尾和紙として300年以上の歴史をもつ佐賀の伝統工芸「名尾手すき和紙」で飾られた大広間が、参加者の期待に包まれた。

最初にテーブルに現れたのは、桜茶といちご。井手農園で完全無農薬で栽培された白いちごのドライチップスは果実味が凝縮され、桜の花びらとともに四季の美しさを伝える。

老舗旅館にふさわしい食前のおもてなしからスタートし、佐賀の食材をふんだんに使った全10皿が登場する。1品目は今右衛門窯の器に盛り付けられた「すっぽん 南禅寺蒸し」。大越氏がセレクトしたのは「Krug Grande Cuvée 169ème」(クリュッグ・グランド・キュヴェ 169エディション)」。「すっぽんの強いうま味とシャンパンのスパイシーな香りは相性抜群です」と大越氏。ノンアルコールのペアリングには、茶の名産地・嬉野の茶農家「副島園」の茶葉を使い、シナモンやカルダモンが香るスパークリング烏龍茶を合わせた。

続いて、「唐津地魚 桜の葉〆 煎り酒」。ペアリングするのはオーストリアのツヴァイゲルトを使ったナチュール・ロゼ「Martin and Anne Arndorfer, Rosa Marie 2020」。ベリーのフレーバーと桜の葉、煎り酒の梅の風味が見事に重なり合う。写真の器は、重要無形文化財保持者(人間国宝)でもある故・中島宏氏(弓野窯)の割山椒。青磁の深い色合いと貫入は、目が奪われる美しさ。

オイスターキャビアをあしらった「神埼そうめん 雲丹和え」。唯一現存する「肥前びーどろ」の工房・副島硝子を訪ねた森次さんは、この器を目にしてすぐに料理のインスピレーションが湧いたそうだ。

もちろんウニも唐津産。アルコールペアリングは、ジョージアのオレンジワイン「Papari Valley, 3 Qvevri Terraces Rkatsitely No.6 2020」を合わせる。「雲丹のねっとり感とワインが持つライトな渋みのバランスがちょうどいい。ワインのフレッシュ感が雲丹の風味を引き上げる」と語る。ノンアルコールのペアリングには、副島園の柚子緑茶に「ゲンコウ」という唐津にしかない柑橘を一絞り。ねっとり感のある雲丹のソースをお茶の酸味が軽やかにしてくれる。「雲丹と柑橘」は大越氏が以前から得意とする組み合わせだ。

「黒鮑 飯蒸し」。ペアリングするのは「Marc Kreydenweiss, Kastelberg Grand Cru Riesling2016」。ミネラリーなワインの塩気は唐津産の黒鮑の味わいを引き立て、肝醤油のニュアンスも受け入れる強さを持つ。ライスミルクと自家製ジンジャービアを使ったノンアルコールのペアリングも好評だった。器は土づくりから自ら担う有田焼の窯元「安楽窯」の器。質実な造形美だけでなく、耐熱に優れ料理のプレゼンテーションにも適している。

イベントの締めくくりに、佐賀のポテンシャルについて語った大越氏。

「ノンアルコールのペアリングで、これだけハイクオリティなお茶が種類豊富に用意できたのは佐賀だからこそ。新しいフレーバーは無限です。ペアリングの世界を手探りで進むなか、今回ならではの新しい発見もありました。これからの佐賀は、森次さんのような若い世代のシェフがたくさん出てきて、より魅力的な県になっていくはずです。デスティネーションレストランとして県外からもたくさんの人が足を運ぶ未来は、そう遠くないはずだと確信しています」

料理を担当した森次氏は、

「昨年の秋ごろから県内の生産者を訪ね歩き、今まで知らなかった食材や生産者と数多く出会いました。たくさんの刺激を経て、今日の本番があると感じています。通常旅館では使わない調理法や、提供しない食材にもチャレンジし、佐賀や唐津が持つ他にはない魅力をあらためて実感できました。これから自分のスタイルをどう作っていくのか、新しい料理のかたちを模索するのかどうか悩むところではありますが、今回の気づきを今後も活かし、育てていきたいと考えています」

と締めくくった。

「USEUM SAGA」の次回の開催は2022年夏を予定。「食材」「器」「料理人」をキーワードに進化し続ける佐賀の「食」に、これからも目が離せない。

TEXT=安永真由

PHOTOGRAPH=神林環

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