ワインの未知の世界に導く案内人と過ごす秘密基地
「飲んだことのない地域や畑、生産者など、自分が出合ったことのない美味しいワインを、いつも探しだしてきてくれる。ワインにプライスレスな新しい価値を見いださせてくれたのは、彼のおかげです」
無類のワインラバーであり、仲間とワインを楽しむために自ら会員制のワインバーをも造ったシーラホールディングス取締役会長の杉本宏之氏がそう評するのが、その会員制バー「RAIN」のソムリエ大坪憲太朗氏だ。
名の知れたワインを飲むことは、お金を出せば可能なこと。でもそれだけではなく、自分では知り得なかったワインの新たな世界を切り拓いてくれたと杉本氏は賞賛する。
「2〜3年後に注目されそうな気鋭の生産者のワインや、白ワインの造り手として名高いコシュ・デュリやラモネが造る赤ワインを敢えてお出しするなど、杉本さんの好みを考えながら常に新しい提案をするようにしています」と大坪氏。
カウンターに座った杉本氏からはいつも「お薦めを」と言われるだけ。それだけ大坪氏のワインに対する選択眼を信頼している証だろう。
「先入観なく純粋に味を楽しんでもらうために、まずは銘柄なども告げずにお出ししています」
舌の肥えた相手にブラインドで提供するのはソムリエとしても一種の挑戦だ。
「毎回どうかな? と思いながら出しています(笑)。でもプレッシャーはなく、逆に今日は何にしようかワクワクするんです。僕が出す1杯が、サプライズになればと思っています」
対する杉本氏もそれを否とせず、常に柔軟にその提案を受けとめてくれるという。
「ワインに対する好奇心がお強いので、ソムリエとしてやりがいがあります。確かに味は素晴らしいですが、毎回DRCばかり出してもワインの面白さはわからないですから」
「RAIN」はフランスの古酒をメインに揃えるため、繊細なワインも多い。大坪氏が「他のソムリエよりも美味しく注ぐ自信はある」と言うように、ワインがその美味しさを発揮できるように、最適なグラス、温度はもちろん、注ぎ方もストレスをかけないよう細心の注意を払う。
「生意気な言い方ですが、杉本会長のワイン体験をもっともっと広げたい。自分がお薦めしたワインで、ご本人がこれまで気づいていなかった未知の好みにたどりつく、それが僕にとっての喜びを感じる瞬間です」
大坪憲太朗
1978年長崎県生まれ。シアトルにて幼少を過ごす。大学卒業後独学でワインを学び、2002年にソムリエに。銀座シノワ、赤坂セレブールなどで勤務した後、’21年に杉本氏の経営するバー「RAIN」と「K&H」のソムリエとなる。
Hiroyuki Sugimoto
1977年生まれ。24歳の時に不動産業で起業し、2005年には業界最年少で上場するが、’09年リーマンショックを機に経営破綻し、民事再生を申請。’10年にSYホールディングス(現・シーラホールディングス)を設立し、復活を果たす。’17年より現職。