酔鯨酒造のフラッグシップである純米大吟醸「DAITO」。こだわり抜いた製法で醸造された豊潤な味わいをクリエイターによるデザインのボトルがひときわ輝かせている。
谷尻 誠による必要なものだけを残した削ぎ落されたデザイン
誕生5年目を迎える純米大吟醸「DAITO」は、その年ごとに著名なアーティストとコラボレーションしてきた。
「日本酒は中身のよさが見えづらいですから、デザインに注力したかったんです」と、この取り組みには酔鯨酒造4代目社長、大倉広邦氏の想いが込められている。過去には、美術家の清川あさみ氏、金箔アーティストの裕人礫翔(ひろとらくしょう)氏などを迎え、最高峰の日本酒にふさわしいプレゼンテーションを展開。そして2020年に白羽の矢が立ったのが、建築家である谷尻 誠氏だった。
「近頃はサステナビリティなどの社会的観点にも感化され、“主張しないという主張”もあるのだと思い始めました。もちろん『DAITO』の味わいが持つ華やかさをデザインに落としこむのもひとつの手ですが、私が手がけるなら、できるだけシンプルにしようと思ったんです」と谷尻氏。できあがったラベルは、日本一画数が多いという漢字「だいと」を中央に配し、落ち着いたカラーに仕上げたシックなものだった。
「視覚からではなく、まずは味覚で『DAITO』のよさが伝わってほしいと考え、このデザインにたどりつきました。極論はエチケットがなくてもいいとさえ思ったのですが(笑)」
ビジュアルデザインを削ぎ落とすことで、本質である酒のよさが浮かび上がってくる。谷尻氏が今、理想とする引き算の美学を追求した仕上がりとなった。
一方「DAITO」の酒自体は、高度な醸造技術、最高品質の素材を惜しみなく携え、華やかなオケージョンにぴったりの1本に。これはシリーズが始まった5年前から貫く、こだわりの姿勢だ。仕こみには高知市を流れる名水・鏡川の伏流水を使い、酒米はごく限られた酒蔵にしか行きわたらない兵庫県東条産特A山田錦を用いる。
「日本酒は、悪酔いしてしまうとか、安物だとか、低く見積もられてしまうことが往々にしてありました。でも本当は、世界一ナチュラルなお酒ともいわれている。自然派志向が高まる昨今、日本酒のよさがもっと広まってほしいと日々試行錯誤しています。谷尻さんのデザインもひと役買ってくれることでしょう」と大倉社長も満足のできだ。
「飲み終わったら捨てるのではなく、そばに置いておきたくなるデザインを目指しました。空き瓶をグラスにするのはどうか、という案も思いついた。今回はかないませんでしたが、いつかは実現させたいサステナブルなアイデアですね」と谷尻氏。
明治5年から営まれる酔鯨酒造、あるいは日本酒業界全体にとっても、彼らクリエイターの発想は推進力となるだろう。
Makoto Tanijiri
1974年広島県生まれ。建築家、起業家として、建築、インテリア、プロダクトなどの企画設計を手がける。tecture、絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、tohaなどを設立。
クリエイターたちの感性を研ぎ澄ます料理とのマリアージュ
ーー純米大吟醸「DAITO 2020」の発売翌日、ボトルデザインを担当した建築家、谷尻 誠氏のもとにふたりの仲間が集まった。起業家の山川 咲氏、コミュニケーションディレクターの土井地 博氏は、互いに刺激し合ってきた仲だ。ここに酔鯨酒造の大倉広邦社長を交え、新作「DAITO」を囲んで座談会を開くことに。谷尻氏の妻・直子氏が手がける料理とのマリアージュを楽しみながら、日本酒とサステナブルな未来について語り明かした。
乾杯の前にサーブされたのは、日本酒の仕こみ水。柔らかな味わいが、酒の旨さを連想させる。
大倉 「DAITO」は水や米といった原料から厳選しています。水は高知県の名水、鏡川から。米は兵庫県産の特A山田錦という最高級品です。
山川 高知といえば仁淀川(によどがわ)や四万十川など綺麗な川も多いですね。自然の豊かさが最高です。
乾杯は、酔鯨酒造初のスパークリング日本酒として2019年に発売された「酔鯨 高知特産“ゆず”SAKEスパークリング」。ペアリングされたのは、真鯛とかぶのしそ和えだ。
土井地 このボトルデザインも素敵ですね。日本酒とは思えない意外性があります。
大倉 海外の方に酔鯨を認知してもらえるよう、鯨の尾をグラフィカルにデザインしています。日本酒に苦手意識を持つ日本の方にも、親しんでもらえたらと。
山川 ゆずの香りが爽やか! 直子さんのお料理に合いますね。
大倉 スパークリングの日本酒は甘めに造ることが多いですが、高知特産のゆずを使ってキリリと仕上げているんですよ。
土井地 一杯目から日本酒を飲んだのは初めて。すぐに誰かに薦めたいほどよい体験です。
谷尻 “とりあえず日本酒”って、ないですもんね。
山川 でも、“とりあえずビール”より意識的にお酒を味わえて、その場をじっくり楽しめるかも。
日本酒と料理のペアリングが続くなか、話題はメインテーマに。今回、谷尻氏は“サステナブルと本質”をコンセプトにボトルをデザインした。持続可能な社会における日本酒とは?
土井地 先人がやってきたことを引き継げば、サステナブルなものづくりは案外簡単かと。
山川 そしてサステナブルなものづくりは、楽しむことも大事。
大倉 まさしく、古くから造られてきた日本酒がそうですね。米と水と酵母というナチュラルなものですし。
土井地 今回谷尻くんがDAITOのデザインをしたことによって、造り手の思いが僕たち消費者にまでつながった気がします。斬新だけど安心感のある彼のデザインは、新しいものとして受け入れられそう。
山川 日本酒であるとかないとか関係なく、今回の「DAITO」は新しい存在ですね。
大倉 谷尻さんから“引き算のデザイン”の話を聞いた時に、確かに私たちは華美にしてしまう面が多少あったかなと。本質を見つめ直せば、足し算はあまりいらないと気づきました。
山川 料理やお酒って、想像力があればさらに美味しくなると思うんです。お酒の造り方はあまり想像できないけれど、今回その助けとなったのが直子さんのお料理です。
大倉 この機会に改めて日本酒について考えてみましたが、日本酒ってその土地の食文化と密接に関わっている身近なものなんですよね。直子さんのお料理も“ひとてま”加えた家庭料理がコンセプトだそうですが、そんなふうに家で気軽に楽しめるはずなんです。
土井地 その場の会話や料理、仲間がお酒を美味しくしてくれますよね。今回はそれにボトルデザインが加わったわけですが、長くお酒と付き合ってきたはずなのに、新鮮でした。
大倉 楽しくお酒を囲む、今夜の会の雰囲気を世界中に広めていくのが次の目標です。
Hiroshi Doiji
1977年大阪府生まれ。BEAMSコミュニケーションディレクターを務める傍ら、ラジオパーソナリティーや大学非常勤講師、司会業など多方面で活躍する。
Saki Yamakawa
1983年東京都生まれ。27歳の時にCRAZY WEDDINGを立ち上げる。現在は独立し、自然との共生を目指す、ホテル&レジデンスブランドSANUに参画している。
Hirokuni Okura
1978年高知県生まれ。大手ビール会社勤務を経て、35歳の時に酔鯨酒造の4代目社長に就任。カフェを備えた蔵の新築、ボトルデザインの改革など、酔鯨酒造を牽引。
DAITO3つのこだわり
最高峰の特A米を30%まで磨く
DAITO造りに選ばれたのは、日本最高峰と謳われる酒米、兵庫県東条産特A山田錦。酒造適正に優れた酒米と認定されたブランドで、この貴重な逸品を、贅沢にも精米歩合30%まで磨き純米大吟醸の酒に。まろやかな甘味を生みだしている。
2種類の酵母で醸す
通常酒造りに使われる酵母は1種類。DAITOでは2種の酵母を用いることで、大吟醸ならではの香り、純米らしい豊かな旨味に加え、「酔鯨」を代表するキレのいい後味を実現させた。さまざまな表情が味わい深く、じっくりと楽しみたい華やかな吟醸香がある。
フレッシュなままボトリングする
酒を搾る段階のなかで最も香味が優れた部分である“中取り”だけを採取し、それをすぐにボトリング。日本酒では珍しく、フレッシュなまま低温貯蔵することで、でき立ての美味しさが詰めこまれた一本に。酔鯨酒造が誇る技術にも想いを馳せて、乾杯。
お問い合わせ
酔鯨酒造 TEL:088-841-4080
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