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2024.06.12
須藤元気が語る格闘家のジレンマ。「強い選手」だけでは客を呼べない
作家、俳優、ミュージシャン、世界学生レスリング日本代表監督……格闘家を引退後もマルチに活躍し、先日の衆議院補欠選挙への出馬も話題となった須藤元気さん。著書『やりたい事をすべてやる方法』(2015年12月刊行)より、そんな彼の「軽やかに転身し続けられる秘密」を公開する。
なぜ「入場シーン」に力を注いだのか
当たり前だが格闘家の場合、みんな『ドラゴンボール』のサイヤ人のようにひたすら強くなることを望んでいる。強くなって天下一武道会のような大舞台に立ち、ブルマにパフパフしてもらいたいと願うのは当然のことだ。そして、ほとんどの格闘家は、強くなれば大舞台に立てると考えている。しかし、これは勘違いである。強い格闘家が大きな舞台に立てるとは限らない。

何故なら大きな舞台(興行)というのは、それだけお金が動くからだ。選手はそれぞれ観客を動員しなければいけない。しかし、強い選手がお客さんを呼べるとは限らない。『ドラゴンボール』でもそうだ。強さがそのまま人気に繋がるわけではない。正直言って、リアルタイムではあんなに強かったフリーザも、魔人ブウ編では、いつのまにかすっかりザコキャラ扱いであった。
しかし、人気面ではどうだろう。どう考えても、魔人ブウよりフリーザの方がお茶の間の心をつかんでいた。つまり、すべての格闘家は強さもそうだが、自分という存在を、魔人ブウではなくフリーザにしなくてはならないのである。
テレビで放送されていたメジャー団体はその傾向が最も強く、視聴率が取れないと思われる選手はいくら強くても声はかからず、話題だけで出ている選手もいた。「なんであいつが出られるの?」は格闘家たちがよく交わす会話の一つであった。
それ故、プロ格闘家たちにはジレンマがあった。
「テレビに出ている選手=強い人」と、テレビ視聴者が勘違いすることだ。テレビは一つの洗脳でもある。
格闘家時代、僕はデビュー当時から入場パフォーマンスに力を注いでいた。大みそかの大会への出場を重ねるにつれ、だんだん小林幸子氏をライバル視するようになっていったのも、テレビ視聴率を考えていたからだ。もちろん、小林幸子氏と総合格闘技で戦えば、KOとはいかないまでも判定で勝つ自信はあった。しかし、勝負はそこではなく、エンターテインメント性での戦いだったのだ。
デビューしたころは、総合格闘技はまだブーム前の時期であり、テレビのゴールデンタイムで放送するなんてことは皆無だった。それは、格闘技に興味のある人が世のなかではまだ一部にすぎないということを示していた。ただ、僕はそのころから「これからはもっと大勢の人たちが格闘技に興味を持っていくに違いない」と思っていたし、それだけ大きい可能性があると気持ちを強く持っていた。
それが派手な入場パフォーマンスや、トリッキーだと言われる戦い方に繋がっていった。たとえば、背中を向けて戦ったりというのも、強そうな人と真正面から向き合って戦うのが正直言っていやだったからだ。しかし、僕の臆病な戦い方がトリッキーな動きに繋がっていき、楽しんでくれる人たちがいてくれたのはありがたいことだった。
スタバは味のみで成功したわけではない
格闘技も映画や音楽のようにエンタメである。強くて客が呼べればそれで問題はないのだが、いくら強くても客が呼べない選手はもったいないし、そういう選手が案外多いのだ。お笑いやミュージシャンでも、まだ世に出ていないが面白い、歌が上手い人は沢山いると思う。だが、「上手=客が呼べる」となるかというと、そうではないケースも見受けられるのが現実である。
そこには、面白いや上手いという技術的なものを超越した「華」と呼ばれるモノが必要になってくる。その人に華があると、人は集まってくる。それはビジネスも同じだと思う。

プロの格闘家というのは、KO勝ちが少ないと華がないように見えてしまう。そうすると、いくら器用で強かったとしても試合に呼んでもらえなくなる。逆にKOするか、されるかという選手というのは、見ている側にとっては面白いわけで、そういうタイプの選手は試合に呼ばれることが多い。
たとえば、「スターバックスより美味しいコーヒーを作ることは可能か?」と聞くと、案外多くの人が手を挙げるかも知れない。作り方を調べて勉強すれば、スターバックスよりも美味しいコーヒーが作れるのではないかと。
では「スターバックスよりも売り上げを多くあげることはできるか?」と聞くと、ほとんどの人が手を挙げられないだろう。
もちろんスターバックスはマズくない。むしろ美味しい。
美味しいとはいえ、頑張って作ろうと思えば、それ以上のものは作れるかも知れない。しかし、美味しいコーヒーだけではあそこまで売り上げをあげることはできない。
サービス、流通の仕組み、戦略、ホスピタリティなどなどいろんな要素が絡まり合い一つの会社として存在しているのだ。
項羽と劉邦の戦いにおいても、圧倒的な戦闘力を持っていた項羽は、結局、補給路を断たれ最後は敗れた。このことからも分かるように、一つの要素が突出しているだけではダメなのだ。
どのジャンルの世界でも、みんな最高のコーヒーを作ることを考える「職人」タイプになろうとする。もちろんこれはとても大切なことだ。
しかし、そこだけしか見ていないと、可能性は全然広がっていかない。全体的、局地的な視点を意識すると世界が広がる。
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