1800年代のシャトー・ラトゥールを筆頭に、わずか6年で飲みたいワインはひととおり飲み尽くした男。それが不動産業界の風雲児、SYホールディングス会長の杉本宏之氏だ。2005年、業界最年少の28歳で上場を果たし、その記念パーティで超高級ワインを振る舞ったところグラスが不足。価値もわからず紙コップに注いで飲み干した。これを見たGMOインターネットの熊谷正寿氏は──。
激動の人生を映すワインという名の履歴書
「『杉本くん、君はワインの神を冒瀆している』。GMOインターネットの熊谷さんにそうたしなめられました(苦笑)。でも熊谷さんはやっぱり優しいと思います。今の私なら声を荒げて叱っています(笑)」
その後、杉本氏はリーマンショックを機に経営破綻へと追いこまれる。そこから再起をかけてがむしゃらに働いていた真っ只中に、スタートトゥデイの前澤氏から飲ませてもらった1945年のシャトー・ラフィットと出合い、初めてワインに開眼した。これが6年前のことだ。
’45年といえば第二次世界大戦が終結した年。フランスはワイン造りがまともにできるような状況ではなかったが、平和の訪れを祝福するかのような世紀の収穫年となり、奇跡的にも偉大なワインが生みだされた。
苦難のなか、成功を収めた1本のワイン。杉本氏は’45年のラフィットが注がれたグラスの中に、自分の人生を見たのかもしれない。
「どん底の時期はワインを飲んでいる余裕などなく、レモンサワーを浴びるように飲んでいました。安く酔えますから(笑)。仕切り直して初めて1億円の利益が出た時は、嬉しさのあまり、シャトー・オー・ブリオンの’82年を仲間と一緒に開けました。ようやく前向きに仕事ができるようになり、ワインを楽しむ余裕も生まれてきたんです」
現在は謎のワイン商T氏をコンサルタントに、すっかりワインの泥沼にはまってしまった杉本氏。取引先に厳選した誕生年のワインを贈り、交渉が円滑に進むことも少なくない。今や杉本氏にとって、ワインは欠かすことのできないビジネスツールのひとつとなっている。
「業界のしがらみを否定し、経験豊かな先達の話に耳を貸さずに突っ走って失敗しました。実は経験って何ものにも代えがたいことなんですよ。ワインも多くの数を飲みこなして、ようやく語れるようになります。熟成を重ねてワインのフレーバーが発展するように、自分も経営者として熟成したいですね」
WINE PROFILE
ワインの師匠は?
――スタートトゥデイ社長の前澤友作氏
好きなワインの傾向は?
――どちらかといえば、力強いカベルネ・ソーヴィニヨン
ワイン消費量は?
――2日に1本くらいのペース
“ワインバカ”なエピソード
――ソムリエとワイン談義に夢中になりデート相手に帰られた
Hiroyuki Sugimoto
1977年生まれ。24歳で起業。2005年に業界最年少で上場を果たすも、’09年に民事再生を申請。’10年にSYホールディングス設立。売上高197億円を超えるまでに復活を果たす。