好きなことに没頭できる自分だけの空間があれば、人生は深みを増す。価値観を人に押しつけることなく、淡々とこだわり、淡々と愛でる。今回は、写真家・平間至氏の仕事の流儀にも通じる趣味部屋に潜入した。【特集 浪漫のある家】
音楽でインプットし、写真でアウトプットする
「ある時ピンと閃くんです、あのケーブルをつないだら、いい音になるんじゃないかと。もう降りてくる感覚ですよ」
写真家・平間至氏の自宅、音響機器とレコードがずらっと並べられたオーディオ部屋で平間氏は微笑む。25年前からオーディオ機器を集め始め、今ではケーブルを自作し理想の音を追い求めるという、もはやプロフェッショナルの域にまで到達。
「ただお金を出して機材を買っても自分の好きな音にはなりません。ケーブルや電源タップひとつでも音は変わりますから、それぞれの特性を頭に入れセッティングを常に更新していく。今朝も電源タップを変えてみました。なかなかいい音になりましたよ。1日にほんの少しでもよくなれば、20年かけたら大きな変化になりますし、オーディオのセッティングが進化すると自分が成長するような感覚があります」
1970年代後半からパンクにニューウェーブ、ポストパンクと聴き続けてきたが、ここ最近60年代のサイケデリックロックに目覚めた。なじみのレコード店に週2回通い店主が平間氏のために選んだレコードを視聴、気に入ったものを毎回入手しているという。
「レコード店へ行き、店の方と話をして、お金を出し、家で針を落とす。ただ聴くだけではない、それらも含めての音楽体験だと思っています」
タワーレコードのポスターをはじめ数々のミュージシャンを撮影してきた平間氏。音楽愛が高じて、地元宮城の塩竈(しおがま)で音楽フェス「GAMA ROCK FES」も主催し、音響設備にも関わっている。
「自然の中、屋外の音響は無駄な反響がなくていいですよね。部屋だとそれぞれの特性がありますから、低音が聞こえすぎるなと思ったら、こうやってセッティングして変えていくもの。私にとって音楽は、密接に仕事と人生に関わってくる大事なものです。音楽でインプットして写真でアウトプットしている、そんな感覚なんですよ」
ここで音楽を聴くのはもっぱら朝の時間。オーディオの前にロッキンチェアを置きコーヒーを飲みながら耳と心を澄ます。
「撮影を終えてヘトヘトの状態ではなくて、一番元気な時間にじっくりと聴きたいですからね」
朝、ここで平間氏は音楽をインプット。そのインスピレーションを写真にぶつけるべく、オーディオ部屋を出て撮影に向かう。平間氏の写真は長い間そうやってつくられていたのだ。
平間至氏のこだわりのオーディオアイテムを紹介!
Itaru Hirama
1963年宮城県生まれ。写真から音楽が聞こえてくるような作品により、多くのミュージシャンの撮影を手がける。2015年からは平間写真館TOKYOをプロデュース。今年は、京都駅と東京駅で音楽をテーマにした回顧展を開催した。