ワインのない人生なんて、血の通ってない人生だ! 経営者やクリエイターが愛してやまない偏愛ワインを紹介する。【特集 情熱の酒】
ワインは人生そのもの。“人生を愉しむ”ために飲む
「それは約10年前のこと。もともとワインは好きで折にふれ嗜んでいましたが、縁あって、とある紳士の貴重かつ膨大なワイン・コレクションを一括して譲り受けることになったのです。それはもう垂涎の素晴らしいラインナップで、まさに運命的な出会いでした──」
銀座四丁目交差点にほど近いビルにある会員制「CITY CLUB OF TOKYO」にて、その創設メンバーのひとりであるラオックス会長の羅怡文氏はゆったりと語り始めた。
「長らく食に興味があり、グルメであることは自負していました。10年前のあのコレクションとの邂逅以降は“美食と美酒=ワインのマリアージュ”に目覚め、飲んではまた新たに購入して、の繰り返しです」
和食やフレンチ、イタリアン、中華などジャンルを問わずの食の探究は続き、食中酒として相性のよいワインの知識も増えていった。現在のお気に入りの銘柄は、和食をはじめ幅広い料理に合って身体への負担も軽い、フランスのブルゴーニュとシャンパーニュが多いとのこと。
「今晩はこのあと、ブルゴーニュの銘醸『アンリ・ジャイエ』を味わう会を仲間と催すのです。実は今からワクワクしています。ボルドーの古酒も大好きで、適度にアルコールが抜けて口当たりが優しいヴィンテージワインも収集しているんです」
ラオックスは数年前、訪日外国人向けビジネスで一世を風靡。羅さんは『爆買い』で流行語大賞授賞式の壇上にも登った。しかしコロナ禍で環境が激変。現在は“グローバルライフスタイル”をキーワードに新業態構築のため日夜奔走する。
「以前から会食は多いけれど、私はワインを仕事に使うという意識はまったくありません。蘊蓄にもこだわらない。おいしい食事と、おいしいワインをいただくことを純粋に楽しみます。ワインならではの文化や歴史、地勢、社会的価値にももちろん興味と敬意はありますし、ビジネスの潤滑油になることも理解しています。でも、“おいしく飲んで食べて愉しむ”という原点を忘れたことはありません」
商談会食を彩るツールとしてのワインの効用は認めつつも、羅氏は、ワインは気の置けない友人・知人とリラックスして食事をしながら堪能することを旨としているのだ。
「希代の銘醸を含む私自身のコレクションは、ざっと1万本近く。かなうものなら体力さえ許せば生涯ですべて飲み切ってしまいたい。友人たちと芳醇なワインを味わい楽しく語り合ったひと時の思い出は、永遠に残り続けますから。たとえ味は忘れてしまっても、ね」と屈託なく笑う。
どのワインをいつ誰と開けるか、何料理に合わせるか、といったことは事前にあまり考えない。その日の気分と雰囲気、料理、メンバーにより抜栓する一本をその場で選び、テーブルを囲む仲間と眼福、口福にひたる。写真やメモはいっさい取らず、エチケットも保存しない。
羅会長にとってのワインとは、「ワインは人生そのもの。“人生を愉しむ”という自分の価値観の象徴です」とのことだ。
至言『ワインのない食事は太陽の出ない一日』『つまらないワインを飲むには人生はあまりに短すぎる』を遺した文豪ゲーテと、同じ境地に違いない。