社会とつながり、社会の助けとなる活動を行っているアスリートや団体を、見つけ、讃え、支えていくことを目的として2017年に創設された「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下「HEROs」)。今回で第5回目となるHEROs AWARD 2021に参加したアスリートは約250名、過去最大規模の授賞式となった。
社会貢献の輪を広げるための、アスリート集いの場
中田英寿(サッカー)、五郎丸歩(ラグビー)らHEROsアンバサダーをはじめ、有森裕子(陸上)、宮本恒靖(サッカー)ら過去のHEROs AWARD受賞メンバー、そしてスポーツ界の第一線で活躍するアスリートたちが煌びやかなドレスやタキシードをまとい、一堂に会し讃え合う。
年々規模を拡大し続けるHEROsの認知が広がるに従い、目に見えて社会貢献への賛同者が増加している。それが示すのはアスリートによる社会貢献の規模が拡大し、今や当たり前のことになってきているという事実だろう。
アンバサダーの一人、中田英寿さんは授賞式を終えてこれまでの活動全体を振り返った。
「今年は特に、参加選手や活動の幅が広がっていると感じますね。分野を超えて活動の厚みが出てきている。まず、スポーツは多くの人が参加できるものですから、スポーツをする楽しさを知ってもらう。それが広がっていって、その延長で社会に貢献できると思っています。要は人と人との繋がりが大事なんです」
中田さんが重視しているのは、あくまでも「スポーツは楽しい」という気持ちから生まれる「人と人との繋がり」。その意識の拡大だ。
「ヒーローはどこにでもいて、誰にもできないことをする人のことです。だからこそ、いろんな人を知り、その人たちの活動を知るのが重要だと思います」
社会貢献活動を行っているアスリートたちのことを知り、その活動を知る。そして意識を広げていく。HEROsが、社会貢献活動の輪が広がるきっかけづくりのひとつになっているのは間違いない。
ここからは「HEROs AWARD 2021」にてHEROs AWARD賞を受賞した3つの活動を紹介する。
村田兆治 ~全国離島交流中学生野球大会(通称:離島甲子園)~
野球を通じて人格形成の場をつくる
元プロ野球選手、ロッテオリオンズで通算215勝をあげた村田兆治さんは、日本全国の離島に暮らす球児たちが一堂に集まる野球大会「離島甲子園」を主催。現在、過疎化や高齢化が進む離島では、経済情勢の変化から、生活や産業に深刻な影響を与えている。そんな離島に暮らす子供たちに、野球を通して絆を繋ぎ、深めていって欲しい。そんな願いがこもった活動が「離島甲子園」だ。
「日本財団初代会長である笹川良一氏の「世界は一家、人類はみな兄弟姉妹」という言葉に大変共感しています。スポーツは継続、積み重ねの分野で、だからこそ夢や希望があるんです。離島も日本の一部ですからね、日本各地へ希望を広げたい。その一心です」
HEROs AWARDを主催する公的財団法人 日本財団初代会長の言葉を挙げて、人との繋がりの重要性を説く村田さん。野球界でもレジェンドとして讃えられる村田さんにとって、野球を通して人生を探求して欲しいという気持ちが大きい。
「少年、少女には、チームスポーツでの交流を通じて絆の芽生えを感じてほしいんです。そして社会へ出てその幅を広げ、決断力・実行力をあげてほしい。そのためには慈愛を持って、喜んで後押しをします。野球を通じて基本的な礼儀を学び、人格を形成することを重要視しているんです」
笹川初代会長のスローガン「人類みな兄弟」に共鳴し、自分の経験を懸命に伝える村田さんの言葉には、日本全国の子供たちへのとても深い愛情がこもっていた。
寺田明日香 ~A-START~
トップレベルの環境で刺激を受けてほしい
東京オリンピック2020、100mハードルにて準決勝進出を果たした寺田明日香選手は、学生アスリート向けに、トレーニング、食事についてのオンライン勉強会や、本人も参加する合宿を主催。大会の中止、練習環境の悪化、それによるモチベーションの低下などを問題視し全国の学生アスリートへの支援を行っている。
「目指す目標がなくなったことは学生アスリートにとってとても大きなことです。練習さえできない日々が続くと、何のために頑張ってきたのか、次は何を目指したらいいのか分からないという気持ちになります。今までの当たり前が当たり前でなくなってしまった今、何かできることはないかとA-STARTを始めました」
一度は陸上を引退し、復帰後にオリンピック出場を果たした寺田選手。学生アスリートへの想いも強い。
「自分が現役だからこそ、トップレベルの選手の練習に参加してもらうことで刺激を受けてもらおうと思いました。触れ合い、情報交換するなかで、新しい意見や考え方を得てもらえたらと。何より、みんなで作り上げたものを表彰されたことが嬉しいですね」
これからも引き続き活動を続けていくという寺田選手。次世代の選手たちに、一歩進むきっかけづくりを今後も行っていく。
千葉ジェッツふなばし ~JETS ASSIST~
千葉一丸で街づくりをするための「ハブ」になる
B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2020-21にて見事優勝を掴み取った千葉ジェッツふなばしは、自宅にある食品を寄付し必要な人たちに届けてもらう「フードドライブ」や肉まんの共同開発、販売を通して、フードロスに対して活動を行っている。大切にしているのは、地域の人々同士の「結びつき」
「普段、同じ地域で生活をしていても気づくことの出来ない地域課題を知るきっかけを創出することで、課題解決に繋げていきたいと思います。ただ私たちだけでは出来ることは限られているため、今後とも千葉ジェッツが地域の「ハブ」となり、ファン、パートナー、地域の皆様を結び付け、千葉一丸で良い街づくりが出来るように邁進してまいります。
僕たちのチーム自体が、これまで地域に大きく支えられ活動してこられました。なので恩返しという意味合いが大きいですね。日々支えてくれているファンの方、地域の方と課題解決が出来たらという思いで『JETS ASSIST』をスタートしました」
そう語るのが、2020年6月に株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役に就任した田村征也さん。スポーツ振興のみならず社会課題とチーム全体で向き合うことを重要視していることがわかるのが、千葉ジェッツの「”ささえる”からはじまる社会貢献」というスローガンである。
そして選手代表として授賞式に臨んだ千葉ジェッツ原修太選手も、活動を通して地域の課題を知るきっかけになったと語っている。
「普段から応援して下さっているファンの皆さん、そして地域が抱えている問題を知るきっかけになりました。光栄な賞をもらえたことはとても嬉しいです。特に、チーム全体として賞を頂けたことが本当に嬉しいですね。今シーズンは不安なシーズンでしたが、多くの人の支えのおかげで優勝ができました。少しは恩返しができたかなと思っています」
優勝という最高の形を叶えた20-21シーズン。シーズンを通してのプレーのみならず、実際に足を運び社会課題と向き合うことが良い街づくりに繋がる。チームにとって、支えてくれた地域に貢献することが、地域活性化の好循環に繋がっていく。
「ヒーローはどこにでもいる」
中田さんがそう感じている、日本各地に点在するヒーロ―たちの存在。さまざまな場所にいるヒーローを見つけ出すことで社会貢献の輪は広がる。それはアスリートに限らず、誰かのため、社会のため、未来のために尽くす存在ひとりひとりがヒーローなのだ。