まだまだ先行きが見えない日々のなかでアスリートはどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「コロナ禍のアスリート」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。
10月にプロ転向
悲願の金メダルを目指す2024年パリ五輪へ向けた覚悟の表れだった。競泳男子の瀬戸大也(27=TEAM DAIYA)が10月にプロ転向した。日本水泳連盟の理事会で、競技者資格規定にある「肖像権の使用禁止に対する場外認定競技者」として承認された。
瀬戸はマネジメント会社を通して「この度、日本水泳連盟に除外認定競技者として認めて頂き感謝いたします。プロスイマーとしてパリ五輪まで一日一日を大切に過ごし、その積み重ねが強化につながると考えています。今後は積極的に海外での大会に参加するなどして強化を行っていきます。競技面だけでなく、水泳界の発展・普及に貢献していけるよう日本水泳連盟と協力をして活動していきたいと思います」とコメントを出した。
競泳のプロ転向は五輪もしくは長水路(50mプール)の世界選手権のメダリストが条件で、トップスイマーにのみ与えられた権限。北島康介、萩野公介(ブリヂストン)、渡辺一平(トヨタ自動車)に続き4人目となる。自由にスポンサー契約を結べるなど商業活動の幅が大きく広がる一方、日本水泳連盟から補助を受けていた合宿、遠征などの費用が原則として自己負担となる。
瀬戸は一昨年に不祥事を起こし、ANAとの所属契約を解除されるなど多くのスポンサーを失った。年間数百万円単位になる合宿、遠征費の負担は軽くはない。それでも近年の競泳は国際リーグ(ISL)、W杯など賞金レースが増加し、世界を転戦して結果を出せば賞金を稼ぐことが可能だ。プロスイマーとして生計を立てることは競泳選手を目指す子供たちに夢を与えることにもつながる。
瀬戸は今夏の東京五輪で複数金メダルの有力候補に挙がりながら、200m個人メドレーの4位が最高成績。本命種目の400m個人メドレーは予選落ち、200mバタフライは準決勝で敗退した。惨敗に終わったが、最終レース直後に「パリまで3年ある。4年よりは短いスパンで、自分としては頑張れる」と早々に'23年パリ五輪を目指すことを宣言。五輪を最後に現役引退したライバル萩野公介(27=ブリヂストン)からは「頑張ってほしい」とエールを送られた。
東京五輪を境に練習環境も大きく変えた。これまでは国内に拠点を置き、期間限定で海外での遠征や合宿を行っていたが、パリ五輪までは競泳王国の米国で積極的にトレーニングを積む方針を固めている。実際に本年10月のW杯ドーハ大会(21~23日)、W杯カザン大会(28~30日)に出場後は帰国せずに米国入り。ジョージア州で東京五輪400m個人メドレー金メダルのチェイス・カリシュ(27=米国)とともに練習を行った。
フェルプスの母校で練習
現在はミシガン州に移動して、ミシガン大で練習中。五輪5大会に出場して通算23個の金メダルを獲得した怪物マイケル・フェルプスの母校でもある名門で強化を図っている。今後は標高2300mのアリゾナ州フラッグスタッフで高地合宿を張り、12月の世界短水路選手権(16~21日、UAEアブダビ)に向けた追い込みを行う予定。年末年始は帰国して家族と一緒に過ごすが、来年1月に再び渡米する方向で調整している。
国内では'20年から埼玉栄高の同級生である浦瑠一朗コーチ(27)とマンツーマンで練習を行ってきたが、現在は16年リオ五輪200mバタフライ銀メダルの坂井聖人(26=セイコー)、200m平泳ぎ前世界記録保持者の渡辺一平(24=トヨタ自動車)の早大の後輩2選手が合流。自身の得意泳法であるバタフライ、平泳ぎのスペシャリストとともに泳げる環境も整った。
パリ五輪までは日米を行き来する生活を継続する方針。米国で武者修行を積む理由を「環境がコロコロ変わった方が飽きない。一瞬一瞬全力でやっていくのが自分のスタイル。先を見ずに本能でやる方が自分っぽいし強くなれる」と説明する。当面の目標は来年5月の世界選手権福岡大会。新たな挑戦に打って出たプロスイマーの真価が問われる舞台となる。