苦楽をともにした仲間、憧れのアートピース。椅子とは座るための単なる道具ではなく、その存在を紐解けば、人生の相棒とも呼べる存在であることがわかる。野営家・伊澤直人さんが愛でる椅子と、そのストーリーとは? 「最高の仕事を生む椅子」特集はこちら!
「一日の終わり、安堵とともに、反省とクリエイティヴを繰り返す」どんな場所でも命を守ってくれる必需品
長野県・八ヶ岳の森の中、セルフビルドの家で暮らす野営家・伊澤直人さん。毎日、長い時間を野外で過ごし、時にバイクに跨がって旅し、夜はテントも張らず、ひとり焚き火をしながらの野営を楽しんでいる。そのワイルドな暮らしからスリルを愛し、何ごとにも動じない強靭な心の持ち主かと思いきや「実は常に不安を抱えている極度の心配性で……」と語り始めた。
「今、大地震が起こったらどうしよう、などと頭のなかで不安が膨らむんです。こんな性格だから、ひとりで生き抜く力を身につけたいと思い、どんな状況でも対応できる訓練を重ねているんです。この考えは地元・宮城に甚大な被害をもたらした東日本大震災を通して、強くなりました」
伊澤さんのキャンプの荷物は極端に少ない。必需品と言えるテントもランタンもなし。他の人と比べると半分ほどの量だ。
「NEMOのキャンプマットと火をつける道具さえあれば、あとは現地調達でなんとかなる」
マットが絶対に欠かせないのは、体温を守るためだという。「地面に寝転ぶと冷えてきて3分でギブアップ。小石や地面のちょっとした隆起も気になるもの。こういったことから身を守ってくれるのがマットなんです。アウトドアでは身体を休めることはとても重要ですから」
一日の終わりに、焚き火を熾(おこ)し、マットに座ってウイスキーを飲む。緊張がほぐれてホッとして横になると、月や星に心が癒やされる。そして、一日を反芻。イベントのアイデアや改善点について考えを巡らせる。
「僕にとってマットは、〝振り返りからの発展〞を生む大切な場所なんです。といってもたいていは疲れと酔いですぐに寝入ってしまうんですけどね(笑)」
NAOTO ISAWA
1972年宮城県生まれ。小学生の頃、ボーイスカウトに入隊し12年間活動。アウトドア・サバイバルスクールを卒業後、東京でサラリーマン生活の傍ら野外学校の運営やラフティングガイドとして活躍。2013年に起業し、「週末冒険会」を立ち上げ。’17年より八ヶ岳に移住。