昨年4月7日、東京などに緊急事態宣言が発令される前の1月下旬から、どこよりも早く在宅勤務体制への移行を発表したのが、GMOインターネットグループの熊谷正寿代表だ。確実に先を見極める経営者が予測する、これからのオフィス、新時代の働き方とはーー。
ビジネスとは仕事ではなく“戦(いくさ)”。オフィスは職場ではなく“武器”
コロナ禍の1年半、働き方やオフィスの在り方について思考を巡らせてきました。いち早く完全テレワーク化を実現し、当初は業績上の大きな変化がなかったため、オフィスの必要性に疑問を感じた時期も確かにありました。しかしその後も考えることを続けていって、ひとつの確信にいたりました。それは、「人にはリアルな場と、リアルなコミュニケーションが必要不可欠である」ということです。
人類の歴史上、リアルな場を抜きにして何かが成功した事例というのは皆無でしょう。人は他者とのコミュニケーションから刺激を受け、発想を豊かにし、世の中をよくしようという意欲に搔き立てられるのです。
人の原動力は、人に会うことから生まれる。この原理原則を忘れてはいけません。あらゆる事業に共通する成功への第一歩は、人と人が会う「場」をオーガナイズすることだと思います。では、コロナ禍が明けたあとの働き方はどうなるか。私たちは国内パートナー(GMOでは社員のことをこう呼びます)約5000人を対象にアンケートをとるなどして方針を決めました。
まずGMOインターネットグループとしては、週5日勤務のうち、2日の在宅勤務を推奨することに。そうなると、オフィスの5分の2、40%の席は常に空きますから、そこでふたつの指針を出しました。ひとつは、人員が40%増えるまではオフィスを広げる必要がないので、当面オフィスは増やさない。オフィス拡充による家賃増大を抑えられるのですから、その分はパートナーへの還元とグループの利益に振り分けます。これを私たちは「未来家賃の削減」と言っています。もうひとつは、稼働していないスペースの活用。主要なグループ企業では個人デスクを排して、いわゆるフリーアドレス制を導入しました。ひとりひとりが自由に好きな場所を使って仕事をするのです。
2019年には第2本社ができました。もちろんオフィスのデザイン、インテリアにもこだわっており、カッコよくて快適な空間を実現しています。ただし、そのカッコよさはオフィスの雰囲気を決める第一要因ではありません。それよりも大事なことがある。それは、そこに集う皆がいかに仲良く和やかに、協力し合える関係を築けるか、です。そうしたいい雰囲気を醸成するために、さまざまな仕組みをつくっているのです。
仕組みこそ、GMOの最大の強み
例えば、相手の目を見る習慣と名前を呼ぶ習慣。このコミュニケーションの第一歩を組織のプログラムとして組みこみ、習慣化できるようにしてあります。私たちは名前がすぐわかるように、全員、左胸の見やすいところに名札をつけている。そこには大きな文字のひらがなで名前が書いてあり、色と数字で所属や職種もすぐ判別できます。訪問いただいたお客様にも、お名前を載せたシールを胸に貼っていただいています。これで着座している状態でもいつもお互いに名前を認識し、呼び合えるのです。こうした仕組みづくりを愚直にやっているので、具体的に「場」の雰囲気をよくしていくことができます。これらの仕組みこそ、私たちの最大の強みだと思っています。
もうひとつ、オフィスに関して私が大事にしている考えに、「象徴」としての機能があります。歴史に学ぶと、ピラミッドにしろ江戸城にしろ、ある特別な空間や建築、場が社会や時代を象徴するものとして強烈なインパクトを残してきたことがわかります。「場」が人に与える心理的影響は極大です。
ですから、私はオフィスをつくる時にはいつも、その土地の一番いい所を選んできました。そうして建物の上には、きちんとロゴを出す。それによって得られる企業としての存在感とよきイメージは、他の方法ではなかなか得られません。象徴としてのオフィスは、経営上の大きな力となります。
私は常々、ビジネスとは和訳するなら仕事ではなく、「戦(いくさ)」だと申し上げてきました。とすると、オフィスの和訳は職場ではなく「武器」です。在宅勤務とリアルな場のハイブリッドの最適解を探しながら、オフィスという武器をより先鋭化させていきたいと考えています。
GMOインターネットグループの渋谷にある第1本社と第2本社
Masatoshi Kumagai
GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表。1963年長野県生まれ。’91年、ボイスメディア(現・GMOインターネット)を設立。現在は、上場企業10社を含む、グループ103社、パートナー6,180名を率いる。