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2021.08.08

9歳の初対決から18年。瀬戸大也と萩野公介にとって東京五輪とは何だったのか?

本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかで、東京五輪メダルを目指すアスリートの思考や大会の舞台裏を追う。

メダルなしも2人にとってはかけがえのない時間

2021年8月1日、競泳競技全日程終了直後の東京アクアティクスセンター。日本代表チームがプールサイドで記念撮影に興じていた。瀬戸大也(27=TEAM DAIYA)が萩野公介(26=ブリヂストン)を抱え込み、そのままプールにダイブ。日本代表ジャージーを着たまま、2人でずぶ濡れになった。9歳の初対決から18年。幾多の名勝負を繰り広げてきた両雄のTOKYOが幕を閉じた。

ともに全盛期にはほど遠い泳ぎで、メダルなし。それでも自国開催の五輪で、ライバルと泳いだレースはかけがえのない時間だった。瀬戸が「すっきりしています。学びのあった五輪。公介と一緒に泳げる喜びは大きかった」と言えば、萩野は「順位は悪いが、一番幸せな五輪。水泳を続けてきて本当に良かった。支えてくれた人に感謝し、僕自身にも"ありがとう"と言いたい」と目に涙を浮かべた。

金を含む複数メダルが期待された瀬戸は大会初日に本命種目400m個人メドレーで、まさかの予選敗退。第3泳法の平泳ぎまでは快調なペースを刻んだが、最後の自由形で力を抜き、決勝進出ラインに届かなかった。決勝へ向けて体力を温存する策が裏目となり「最後の自由形で読み間違えた。ちょっと信じられない。もう1回泳ぎたい」とぼう然とした。

恩師からの助言で決勝進出した瀬戸

不倫問題による負のイメージもあり、インターネット上では後半にペースを落とした泳ぎに批判が殺到。瀬戸が「余力を持って予選を泳ぐのが自分の戦い方。ネットでいろいろなことを言われてむかつきますけど、パワーに変えたい」と発言すると、さらなる炎上を招いた。続く200mバタフライも準決勝で敗退。最終種目200m個人メドレー予選は当落ラインぎりぎりの19位で何とか通過した。

完全に自分の泳ぎを見失っていた。後がない状況で手を差し伸べてくれたのは、かつての師匠だった。200m個人メドレーの予選後、昨年4月に師弟関係を解消した日本代表の梅原孝之コーチ(50)から「バタフライの泳ぎが半バタ(50mバタフライ)みたい。あれではもたない。もっと落ち着いた方がいい」と助言を受けた。

15年以上も師事した恩師。新たなアプローチで練習したいとの理由で高校時代の同級生とタッグを組んで1年以上が経過したが、五輪期間中は練習を見てもらう機会も多かった。準決勝前のアップでは他コーチも交えてバタフライのテンポを確認。落ち着きを取り戻し、全体3位で決勝に駒を進めた。

200m個人メドレーに専念して決勝進出した萩野

一方の萩野は開幕1ヵ月前、重圧に苦しんでいた。長野県での合宿中に不安で部屋から出られなくなり、午前4時に平井コーチに「眠れません」とLINEした。精神的に不安定になり、急きょ1日オフを与えられた。妻で歌手のmiwaと1歳の子供を長野県に呼びリフレッシュ。一時は棄権も検討される中、何とか持ち直した。

'15年6月に自転車事故で右肘を骨折した。保存治療で乗り切り、'16年リオ五輪は金、銀、銅を獲得。その1ヵ月後の右肘手術が苦悩の始まりだった。患部にシビれが残り、記録が低迷。レースに恐怖心を抱くようになり、'19年2月の大会でメンタルが崩壊した。休養に入り、1ヵ月近く海外を放浪。3ヵ月後に練習を再開したが、トレーニングは順調でもレースで力が発揮できない。本番用水着を履くと体がガチガチになるイップスに陥った。

4月の代表選考会は心身ともに負担の大きい400m個人メドレーの出場を断念。東京五輪では200m個人メドレーに懸けていた。準決勝を突破すると、号泣。決勝に進めない可能性もあると踏んでいただけに「純粋にもう1本泳げてうれしい。うれし泣き以外の何ものでもない」と目頭を押さえた。

迎えた決勝レース。瀬戸は3位に0秒05差の4位、萩野は6位でメダルを逃した。5年前のリオ五輪の400m個人メドレーでは萩野が金、瀬戸が銅で一緒に表彰台に立ったが、再現はならなかった。
レース後、瀬戸は「パリまで3年ある。4年より短いので頑張れる。失敗から学んで感謝と謙虚さを持って努力したい」と'24年パリ五輪を目指すことを宣言。萩野は進退について「未来の気持ちは誰にも分からない」と明言を避けた。ともに平坦ではない道を乗り越えて、たどり着いた地元開催の五輪。そこには黄金に輝くメダルより大切なものがあった。

TEXT=木本新也

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