各界の第一線で躍動するプレイヤーたちは、こぞって資本となる己の肉体を磨き続ける。仕事も人生も謳歌するための、彼らの肉体論に迫る。
2014年W杯で感じた敗北感や危機感こそが源泉
鍛えるとは、すなわち「自分を知ること」。そう話すのは、この10年の日本サッカー界を牽引してきたトッププレイヤー・香川真司である。
「本格的なトレーニングをするようになってサッカーと向き合う時間が増えましたし、自分の強みを認識することの重要性を知りました。それは、僕にとってすごく大きな変化でした」
高校2年の冬にプロ契約。10代にして日本代表に名を連ね、21歳の冬には海を越えてドイツの強豪ドルトムントに加入した。そこからの快進撃は、まさに圧巻だった。
1年目から中心選手としてドイツ国内リーグの優勝に貢献すると、2012年には名門マンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれてイングランドに渡った。さらに、日本代表としてはエースナンバー「10」を背負って’14年W杯に出場。大きな期待を胸に、サッカー王国ブラジルの地に降り立った。
しかし、この大舞台で日本代表と己の力を見せつけることはできなかった。おそらくその時に感じた敗北感や危機感こそが、トレーニングに対する香川の意識を変えさせたのだろう。それまでは「チームが決めたメニューをこなすだけだった」と振り返るが、’15年になるとパーソナルトレーナーと契約し、はっきりとした目的意識を持って「自分自身の特長であるアジリティや、テクニックが活きるためのトレーニング」に没頭するようになった。
それからずっと、年齢やコンディションの変化に合わせて時間の使い方を意識しながら、トレーニングの時間、すなわち自分自身やサッカーと向き合う時間を丁寧に積み重ねてきた。契約するシェフや管理栄養士との会話でさえも、もちろん“鍛えること”の一環だ。世界で勝てる自分だけの身体を手に入れるために、そうして試行錯誤を続けてきた。
専属トレーナーの名和大輔さんが言う。
「フィジカルコンタクトや球際の強化に加え、スプリント力やプレイの柔軟性など、攻守において“闘える身体”を目指してきました。ここ1、2年で明らかに上半身の厚みが増していますが、彼の持ち味であるテクニカルな長所は消さないように話し合いながらトレーニングに取り組んでいます。さらに股関節や足部を機能的に連動させることで、ボールが取られにくくなり、簡単にロストするプレイがなくなったように感じます」
スペインへの移籍や所属クラブのない浪人時代など、理想とかけ離れた難しい時間も確かにあった。コロナ禍によるロックダウンの時期には、体力の低減を恐れてインドアバイクを積極的に使ったという。
現在32歳。ベテランの域に達しつつあるが、見てのとおり身体は衰えていない。上着を脱いで現れるバキバキの上半身は、トレーナーや栄養士、シェフなど周囲の協力を得ることで手に入れた大切な肉体。世界の舞台で闘い、勝つための特別な武器だ。
自分自身、あるいはサッカーと正面から向き合うことで、「自分を知る」ことができる。それが次の成功につながるから、香川は身体を鍛える。