藤田氏をワイン沼に導いた張本人であり経営者の先輩・GMOインターネットグループの熊谷正寿代表。つい先日も一緒に飲んだばかりだという熊谷氏は、この対談のために特別なワインを準備して待っていた。
大切な接待でワインは大きな意味を持つ
藤田 この間はありがとうございました。久しぶりに衝撃的なワインでした。あのDRCのラ・ターシュ、香りがもう本当に香水みたいで。どうやったらもう一度、あのワインが飲めるのか、あれからずっと考えています。
熊谷 お店のメニューには載っていない1974年のDRCのセットだったけど、せっかく藤田くんと一緒だし、と思ってラ・ターシュを飲んだら美味しくて。そこから一気にリシュブール、ロマネ・サン・ヴィヴァンまで空けちゃった(笑)。僕も、DRCの同じ年のヴィンテージの“横飲み”は生まれて初めて。でも、3本はちょっと飲みすぎたかな。
藤田 もともと25歳くらいまで、まともなものを飲んだことがなくて、ワインってまずいと思っていた僕に、5大シャトーを飲ませてくださったのが、熊谷さん。あの時は衝撃でしたし、忘れられない体験でした。いいワインってもちろん高価ですけど、そこに惜しみなく投資する熊谷さんの背中を見て、こんな風になりたい、と思ったんです。
熊谷 ワインは思い出に残るよね。あのワイン美味しかった、とずっと語れる。他のお酒では、なかなかそうはいかない。
藤田 僕もワインだけは特別だと思うんです。しかも今回、この対談のためだけにルロワのロマネ・サン・ヴィヴァンを出してくれて。またひとつ、忘れられない記憶が増えました。大切な接待でも、やっぱりワインは大きな意味を持ちますよね。
熊谷 僕も20代半ばまで、本当のワインを知らなかったけど、お客様に連れていっていただいた西麻布のお店で、初めてブルゴーニュのワインに出合った。それから、すっかりハマってしまって。IT系企業以外には投資をしないと決めていたのに、ワインのインポーターに投資することになり、今ではブルゴーニュの日本最大級のインポーターになってしまった(笑)。でもおかげで、現地に何度も行って、テロワールの違いを肌で感じることもできました。
藤田 ワインって、詳しい人と飲むと、より美味しくなります。なるほど、そういうことなのか、とイメージが湧くと味が全然違う。だから僕も社員とご飯を食べている時には、ワインについてちゃんと説明するようにしています。そうすると、みんな目の色、変わりますよ(笑)。
熊谷 やっぱり、美味しさには、ちゃんと理由がある。
藤田 だから、せっかく美味しいワインを飲んでいるのに、脇目もふらずに仕事の話をされるのが、一番キツイ(笑)。それにしても、熊谷さんの場合は、会食に専属のソムリエが同行しますからね。これには僕も最初、本当に驚きました。そんな社長、見たことないですもん。
熊谷 ワインとグラスをお店に持ちこみ、ソムリエを同行させます。
藤田 たしかにせっかくいいワインで喜んでもらおうと思っても、飲み頃を外したり、スマートにサーブできなかったりすると、本当にもったいない。
熊谷 僕は人の笑顔を見るのが大好き。笑顔って、幸せのバロメーターじゃないですか。プロフェッショナルがついていれば、おもてなしのクオリティが変わります。ヴィンテージワインを持っていって、揺すって注がれたりしたら、本当に残念。でも、そういうことを知っているソムリエがお店にいるとは限りません。ワインを美味しくいただくためには、プロが必要ですね。
藤田 僕も専属ソムリエ欲しいです(笑)。相談に乗ってほしいんですよね。何を選んでいいか、わからない時もあって。それでおもてなしのパフォーマンスって、絶対に変わると思いますし。
熊谷 グラスも本当に大事。ブルゴーニュのいいワインは香りを楽しめるので、それを最大限に引きだす形のグラスで飲まないと。バカラは、ロマネ・コンティを飲むためだけに大きなグラスを作っていたりする。いいグラスで飲むと、明らかに香りが違います。
ワインは“陽”のお酒。愚痴は似合わない
藤田 それにしても、熊谷さんは、とんでもない額をワインのおもてなしに投資してますよね。
熊谷 それは互いに、でしょう。でも、藤田くんがワインにハマり始めてから、いい意味でワイン好きがエスカレートしていったのがわかったんです。すげぇの持ってくるな、と。そうすると、僕も負けじと、もっとすごいのを持っていこう、ってだんだんお互いにエスカレートしていって(笑)。
藤田 僕は熊谷さんと飲む時はいいワインを開けてもいい、と決めているんです。熊谷さんはめちゃめちゃお酒強いですよね。
熊谷 いやいや、藤田くんもだから。暴飲コンビ(笑)。
藤田 こないだDRCを3本飲んだ時も、その後にまた別の店に行ってたって、本当ですか。
熊谷 藤田くんだって、接待の後にひとりで飲みに行ったりしてるじゃない(笑)。
藤田 でも、お互い変わらないですからね。飲んでも熊谷さんはずっと紳士。
熊谷 お酒で人格が変わる人もいますけど、藤田くんと僕はない。そもそもワインって、"楽しいお酒"だと思うんですよ。ワインは愚痴が似合うお酒じゃない。"陰"じゃなくて"陽"だよね。
藤田 熊谷さんは最近、何かハマっているワインって、ありますか?
熊谷 僕はやっぱりドメーヌ・ルロワ。そりゃもう、熱烈に恋してます。味が他のワインとまったく違う。それに、有名な話ですけど、オーナーのラルー・ビーズ・ルロワ女史は、必ずシャネルのスーツを身に纏(まと)って農作業をしているんです。
藤田 そういう話を聞くと、ますます美味しく飲めそう。
熊谷 実際、世界最大のワイン検索サイト「ワイン・サーチャー」が選ぶ世界最高のブルゴーニュワインで、2020年のトップ10にドメーヌ・ルロワ関連が7銘柄も入っているんです。ルロワは1980年代後半からワイン造りを始めて、リスクを取ってチャレンジし、変革し続けたことで厳しい競争を勝ち抜き、圧倒的な存在になった。なんと、ベンチャーの我々の気風に合っていることか(笑)。
藤田 たしかに。僕は今、早飲みできるワインを探しているんです。最近は、早飲みできるいいワインがあるんですよね。熊谷さんに教えてもらったエシェゾー エマニュエル・ルジェを飲んだ時、口に入った瞬間から美味しくて。あれは2014年ヴィンテージでした。
熊谷 いい年だね。’13年も美味しいですよ。
藤田 ワインって、熟成させなきゃいけないものだと思っていたんですが、造り手によっても変わる、ということがわかって。早飲みできるものを探しているんです。
熊谷 実は熟成にかかる時間は、ぶどうの枝を取っているか、枝ごと漬けているか、で違ったりする。造り手と畑のかけ合わせで、どのくらい熟成したほうがいいのかが決まっています。
藤田 そうなんですね。僕はとにかく飲んで学んでます(笑)。
熊谷 そういえば、藤田くんのワインインスタは本当にすごいよね。日本一有名なワインインスタじゃないの? 文才もあって、読んでて面白いし。
藤田 最初は自分の記録のためのインスタだったんですが、多くの人に見ていただくにつれ、誰かの役に立てるかもと思うようになって。熊谷さんのおもてなしによって、多くの人がワインに目覚めたのも知っていますから。そう思うと、改めてワインの力の大きさを感じます。
熊谷 人間関係の潤滑油であることは間違いない。他のお酒にはない魅力があって、笑顔づくりの最高のツールになります。ビジネスでも、大きな武器だよね。会食でもワインを飲みながら、和やかに食べたほうが、絶対に仲良くなると思う。
藤田 いいワインって、短期の関係性じゃなくて、長期の関係性をつくってくれるんだと思うんです。長い年月で、超熟させられるような素晴らしい関係性がつくられていく。まさにワインそのものと同じ。
熊谷 さすが、素晴らしい締めをいただきました。
Masatoshi Kumagai
1963年長野県生まれ。’91年、ボイスメディア(現・GMOインターネット)を設立。現在は東証一部上場のGMOインターネットを中心に、上場企業10社を含むグループ100社、パートナー6180名を率いる。
Susumu Fujita
1973年福井県生まれ。青山学院大学を卒業後、インテリジェンスを経て’98年にサイバーエージェントを設立。2000年には東証マザーズに当時史上最年少での上場を果たした。’14年、東証一部へと市場変更。’16年にテレビ朝日との共同出資でABEMAを開始。’21年3月31日、時価総額が1兆円を突破した。