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2020.11.01

【松浦勝人】「漫画は人並みに読んできた。でも自分の人生の方がそれ以上に、楽しいこともつらいこともあった」

松浦勝人

人生は漫画より奇なり?

漫画は人並みに読んできた。でも、ほぼすべてが仕事絡みだった。ドラマが始まるから『東京ラブストーリー』を読む。映画になるから『ヘルタースケルター』や『頭文字(イニシャル)D』を読む。そうするとどうしても、ウケるポイントを探すような、仕事目線の読み方になってしまう。

仕事から離れて読んだ漫画で、記憶に残っているのは『課長 島耕作』。週刊青年誌での人気が高かった頃に、なんとなく毎週読んでいた。

サラリーマンの世界をまったく知らず、スーツを着て電車で通勤するということをしたことがない僕にとっては、非日常の世界。上司が出世ラインから外れると、自分も左遷されてしまうというような、自分の責任ではないところでさまざまなことが起きる。そういう組織のなかで、島耕作が活躍したり、半沢直樹が倍返しをしたりすると、読んでいる人は胸がすく思いをするのだと思う。それを見るたびに、サラリーマンという生き方も大変だなと思う。

それは決してサラリーマンを下に見ているわけではなくて、僕には無理、やっていけない世界だと思っている。〇〇プロジェクトとかいって、自分にはまったく興味がない仕事でも、成果を出さなければならない。好きとか嫌いとか言っていられない。それが僕にはできない。

僕はたまたまエイベックスを自分で創業したから、好きとか嫌いとか言うことができたけど、エイベックスという組織のサラリーマンだったとしたら、すぐにクビになっていると思う。「このアーティストを担当しろ」と上司から命令されても、気に入らなければ「いやだ」と言ってしまう。「そんなの売れないよ」とうそぶいてしまう。組織人としては失格。

子供の頃は、『ドカベン』や『サーキットの狼』といった、皆が読むような漫画は普通に読んでいた。小学生の時には、漫画家になろうとしたこともあった。といっても、子供がやることだから、野球漫画を描いて本のように綴じ、クラスで回覧するとか、その程度。

中学、高校になると、音楽も作り始めた。プロになろうなんて考えてもいない、単なる趣味の世界。でも、それが仕事になってしまった。僕の場合、どこまでがアマチュアで、どこからプロになったのかがはっきりしないのだけど。

本格的に音楽を作り始めた時には、CDで販売することを前提にして作るようになっていた。いい曲なのか、ダメな曲なのか、それを判断するのは自分。売れるのか、売れないのかを判断するのも自分だった。すべて自分の責任でCDを出す。周りに意見を求めることはあるけど、上司が判断したり、ダメ出しをしたりすることはない。そういう経験が、僕にはすっぽり抜け落ちている。

今思えば、相当に怖いことをやっていたんだなと思う。それ以前から、ユーロビートの楽曲を集めてCDにして売るということをやってきて、3枚出して1枚はヒットしなければ会社が潰れるという状況で仕事をしてきた。当時は、怖さを感じている余裕もなく、やらなければ仕方がないという気持ちだった。僕は「ヒットするに決まっている」と信じ切っていた。ほんと、よく売れたよね。まぐれが続いたとしか思えない。

課長から部長、取締役になり、会長、相談役まで上り詰めた島耕作と僕は、まったく違う世界を生きている。僕にとって漫画は、そんな知らない世界を覗き見るものだったのかもしれない。

最近、「なんでこんなに暇があるんだろう」と思って、以前と働いている時間を比べてみたら、たいして変わっていなかった。暇になったのではなく、暇を感じる時間が増えたということらしい。日付感覚も曜日感覚もなくなりつつあるけど、それでも自分のスケジュールを見ると、忙しさは以前と大差ない。コロナ禍とリモートワークとCEOの退任。この3つがいっぺんに起ったため、気持ちがまだ切り替えられていないのだと思う。

今までは、役員会議でも議事進行をしなければいけなかったし、意見をまとめたりもしなければならなかった。でも、CEOでなくなり、一取締役となった今は、進行や取りまとめをしなくてもいい。それが、こんなに楽だとは思わなかった。ほとんどがウェブ会議になっているので、画面越しに内容を聞き、自分の思ったことだけを発言する。会議に参加する心構えが、以前とはまったく違う。

例えば、休日に予定していた釣りが、天候が悪くて中止になる。CEOだった頃は、その空いた時間に仕事や考えごとをしていた。でも今は、時間を持て余す。時間を持て余すという経験を今までしたことがなかった。だから、自分のなかで暇感が膨らんできているのだと思う。

その暇な時間に、最近は小説を読んでみたりしている。意外に面白い。内容は他愛もない話。ある男が定年退職をして、奥さんから煙たがられるので、用もないのに街に出てみたら、ある女性と出会って……みたいな話。でも、それに感じるところがある。何かの役に立ったり、ヒントになったりすることは、ビジネス書ではなく、漫画や小説のなかに見つけることが多かった気がする。

漫画に関しては、EXILEのHIROが薦めてくれたものをよく読んでいた。彼の感性はわかっているので、だいたい僕にとっても面白い。でも、HIROも忙しくなって、漫画を読んでいる時間がなくなってしまった。それで僕も自然に読まなくなっていった。もちろん、漫画は嫌いじゃない。ただ、たくさんありすぎて自分では選べないだけ。

でも、社長からCEOの時代、僕が漫画を読まなくなった理由は、それだけではない。自分のリアルな人生の方が、漫画以上に楽しいことがあり、つらいこともあった。リアルな世界の振れ幅があまりにも大きすぎて、漫画よりも面白かったのだと思う。ひと区切りついた今、仕事を離れて普通の人と同じように、エンタテインメントを楽しめるようになりたい。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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