師匠か、恩師か、はたまた目をかける若手か。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿をご紹介。連載「相師相愛」第50回は、医療ベンチャーの旗手と病院界の重鎮。
労働者健康安全機構 理事長・有賀 徹が語る、阿部吉倫
医学部を出たけれど医者にはならず、新しいことをやろうとしている若い人が出てきていることは知っていました。ただ、阿部さんたちは、医学もちゃんと勉強し、医師を経験したうえで、それをやろうとしているんですね。
しかも、病院にとって電子カルテなどの事務作業は一筋縄ではいかないものでした。
そこに、比較的わかりやすい方法で医師や看護師の仕事を助けてくれるかもしれない方法論を持ちこんでくるというのは、時宜(じぎ)を得ているし、大変ありがたいことだと思いました。
お付き合いをしてみて感じるのは、何より素直で純粋だということです。話をしていて、自分たちの会社をどう発展させていくか、なんて聞いたことがない。
あくまで社会にある課題をどうするべきか、ということに向き合っている。目の前の仕事に忠実だというところが、最も惹きつけられるところです。
彼らが今後果たしていくことが、社会や国の役に立つ。そこにこそ、価値があるし、大いに期待をしているところなんです。
東京都医師会でとても信頼している先生が、電子化に興味を持たれて社会実装に取り組まれたという話を聞いていました。クリニックの経営に大いにプラス効果をもたらす、と。それを担ったパートナーが、なんと阿部さんたちだったんです。世間は狭いなぁと思ったと同時に、そういう信頼のおける先生のパートナーに選ばれているということに、彼らの運を感じました。でも、運も実力ですから。
コロナがなくなったら、また飲み会をやりたいですね。楽しみにしています。
Ubie共同代表・医師・阿部吉倫が語る、有賀 徹
2年前に、日本病院会主催のシンポジウムで、我々のAI問診サービスを外国語対応にしていくという話をしました。
この時に控え室でご挨拶し、帰りに「君たちのシステムは救急相談でも使えるんじゃないか」とご意見をいただいたのが最初の出会いでした。
その後、救急相談の公的窓口を担当している先生をご紹介いただいたり、今も毎月のように出される宿題を抱えて訪問したりと、ご指導いただいています。
現場の課題を解決していくのもソフトウェアの役割ですが、医療業界や社会の課題はどうか、といった大きな話を聞くことで、経営の目線がふっと上がるんです。
そこから自分たちの立ち位置が見えてきたり、どう事業を広げていくかのヒントが見えてくる。先生との出会いは、本当にありがたいことでした。
一方で、先生の大学時代の仲間たちとの集まり「有賀会」にもお誘いいただいて、仕事とはまたちょっと違ったフランクな、そして親分肌な姿も見せていただいています。
病院向けサービスを提供してきましたが、新型コロナウイルスが感染拡大するなか、生活者向けサービスが今こそ必要になっている、と檄をいただきました。他に進行中の開発を止め、生活者のみなさんが医療に迷わないためのサービスに開発リソースを集中させました。
歴史的な経緯や医療業界全体の動きなど、若輩者ゆえ、右も左もまだまだわかりません。羅針盤のようにいろいろと指し示していただいていることに、本当に感謝しています。今後とも、ご指導をどうぞよろしくお願いいたします。コロナ禍が収束した暁には飲み会も楽しみにしております。
Tohru Aruga(左)
1950年生まれ。東京大学医学部卒業。公立昭和病院救急部長、昭和大学病院救命救急センター長、同病院長などを経て、2016年より現職。昭和大学名誉教授。
Yoshinori Abe(右)
1990年生まれ。東京大学医学部卒業。医師3年目だった2017年に、医療×AIのヘルステックスタートアップUbieをエンジニアの久保恒太氏と創業。